第5話 その存在


 エリアスは不老不死となった。


 けれどエリアスは不老不死になる事を望んではいなかった。リュカを助ける為に仕方なく不老不死になってしまったのだ。

 リュカは生気と体力を補わないと生きていられない体だった。だから不老不死の魔物をエリアスは懐柔しようとし、それが叶わなかった為に自分が不老不死となることを受け入れたのだ。


 しかしエリアスが仕事で帰って来れなくなったその間に、リュカは呪いを受け入れてしまってその命を落とした。


 リュカを助けられなかった事を今もずっと悔やんでいるエリアス。

 それは誰が悪い訳でもなくて、どうしたら良かったのか、なんてその時は分からなかった事で……

 だからエリアスが悪い訳じゃない。それは誰もが分かっている事で、誰に責められる事でもない。


 なのに、エリアスは自分を責め続けている。


 私が「リュカをお願い」って言ったから、言ってしまったから、だから責任を感じているのだ。


 あれからエリアスはずっと一人でいる。

 

 死ぬことも出来ずに、大切な人々から自ら距離をとって、そして人知れずこの世界を救っている。


 けれど、エリアスは救われない。


 このままじゃ永遠にエリアスは救われないままだ。


 不老不死になる可能性があると分かった私は、「エリアスを助けにいく」と約束をした。エリアスは「信じている」って言った。


 その約束を守る為に、私は今ここにいる。



「遅くなってごめん……エリアス……」



 あれから400年以上の時が過ぎた。


 私が生まれ変わるのには様々な条件があった。その条件をクリアーするのに、これだけの時間が掛かってしまったのだ。

 けれどそんな事は言い訳にしかならない。その間、エリアスはずっと、ただずっと一人でこの世で皆を守っていたのだから。


 だから私は会いに行く。エリアスが私を突き放そうとしても、必ず見つけ出してやる。


 そう思い直して起き上がり、テーブルに置かれてあった装備類を一つずつ装着していく。

 そこに見覚えのない袋が置いてあった。まぁまぁ大きなその袋を持ち上げると、ズッシリとした重さが手に伝わってくる。中身を確認して驚いた。



「これ……白金貨が……こんなに……」



 これもエリアスが置いていったのか?!全く、こんなに大金を置いて行って、本当に過保護だな!

 こんなのより一目会えたら、それだけで十分なのに……!

 それでも私を思ってそうしてくれた、と思えば心が暖かくなってくる……


 因みに


小銅貨1枚は、パンを1つ買える程の価値。

小銅貨10枚で銅貨1枚。

銅貨5枚で大銅貨1枚。

銅貨10枚で銀貨1枚。

大銅貨2枚でも銀貨1枚。

銀貨5枚で大銀貨1枚。

銀貨10枚で金貨1枚。

大銀貨2枚でも金貨1枚。

金貨10枚で白金貨1枚。

大金貨2枚でも白金貨1枚。


 となっている。


 白金貨ばかりこんなに大量に置いていくなんて、私に家でも買えといっているのか?それでも余りすぎる程の金額を置いて行くなんて。

 本当にいつまでたってもエリアスは心配性なんだな。けれど、思わずフフ……って笑ってしまう。


 装備を装着し終えてから、大量の白金貨が入った袋は空間収納へ入れておく。この空間収納も使える人は、今では殆どいないらしいから、人前では出し入れに気を付けるようにしている。

 

 前世の頃より魔物の出現が低くなったからか、冒険者や騎士の強者と言われている人達のレベルはかなり下がったと思われる。そこまで強い必要がないからだ。

 だから魔法も衰退していってて、現在高度な魔法を使える者はほぼいない。


 それは良かった事なのかどうなのか……

 

 部屋から出て受付に行き鍵を返すと、受付にいた女性が不思議そうに私を見る。



「あ、あの、髪の色と瞳の色が、変わっています、よね……?」


「え? ……あぁ、そう、だな……可笑しいかな?」


「いえ! いいえ! そんな事はありません! どんな髪型であっても色であっても、貴方は凄く美しいです!」


「そ、そうか、ありがとう……」


「あ、ごめんなさい! 私ったら……!」


「いや、嬉しいよ。あ、そうだ、聞きたいんだけど、私がここに来た時はどうやって来たのかな?」


「あ、そうですね、具合を悪くされたんですよね?! もう大丈夫なんですか?!」


「あぁ、もう平気だ。それで、その、私と一緒に来た人の事を覚えている、かな?」


「あの男の人ですか? お知り合いの方なんですよね? その、前の貴方と同じような黒の髪と黒い瞳の男性ですよね?」


「そう、だ! その人は何か言って無かったか?!」


「あ、お部屋の代金は受け取っています! と言うか、お泊まりの部屋を買い取られたんですよ! いつでも泊まりに来れるようにって、部屋を空けといてくれって!」


「えぇっ!? そうなのか?!」


「はい! こんなことをされたのは初めてでしたが、有り余る程の金額を置いて行かれて……ですからいつでも来て下さい! 勿論毎日でも良いですからね! あ、それと食事代も頂いてます! これで毎日食べ放題ですよ!」


「そう、なのか……」


「その、あの男の人とは、その、そういうご関係なんでしょうか……?」


「え?」


「あ、いえ、えっと……貴方を連れて来られた時、その……とても大事そうに抱きかかえてらして……愛しい人を見るようにとても優しい表情をされていて……あ、すみません、こんな事を聞いちゃって!」


「あ、いや……そうだね……彼は私の大切な人なんだ……」


「あぁ! やっぱりそうなんですねー!」


「な、なぜそんなに嬉しそうに……」


「あ、ごめんなさい! 私そういうのが好きなんです! なんか、本当の愛って感じがするじゃないですか! 美しければ男性同士であっても全く問題ないですしね!」


「あ、あぁ、そうなんだね……」



 何やら嬉しそうに目をキラキラさせている女性を後にして、もう一度さっき行ったギルドに行く。そこでも私の髪と瞳の色が違っていたので凄く驚かれた。


 私の髪と瞳が黒かったのは、私に宿るテネブレの影響だった。それが魔力制御のベルトを着けたことで、私の元々の髪と瞳の色に戻ったと言う事なんだろう。


 ギルドの窓にうっすら映る自分を見てみると、私の髪と瞳は、藍色に銀が混ざったような色だった。生まれ変わってから初めて本当の自分の髪と瞳の色を見た。

 けれど、前世も同じような髪と瞳の色だったから、懐かしいといった感覚というのが本音だ。


 今度こそ森で採取した薬草や魔草、低レベルの魔物の素材を買取りカウンターで売る。それから食材を買ってから街を出る。


 とにかく石を見つけよう。もしかしたら、エリアスが持っている石もあるかも知れないし。


 今世で初めてエリアスを感じる事ができて、それが凄く嬉しくて、幸せな気持ちを噛み締めながら私は一人東へと進んでいく。





 

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