第17話 キャットファイトは心削られる
「何を…ッ」
スリッパで頭をはたかれたマデラインが声を上げた。
スパ───ン!
「ちょ、やめっ」
スパ───ン!
「に、人間ごときが」
スパンスパンスパン!
腕を振り回してきたので連打してみる。スリッパ分リーチが長いので何とかなった。あえて顔は狙わなかった。だって与えたいのは精神的ダメージだからな!まぬけな攻撃を受ける屈辱を味わうがいい。
「…下等生物め!」
涙目で吠えたマデラインの掌に、ぼう、と光が集まり始めて焦った。あ、これあかんやつ。殴り返されるのは予想していたが、そういやこいつ魔族だった。
「───控えよ、マデライン!」
救いの神はレオノラだった。
二人の間に割って入った侍女頭が手をかざすと、マデラインは崩れるように膝をついた。見るといつの間にか私を囲むように近づいていたアン、イライザ、セルマも同様に、掌を向けている。
「う……」
立ち上がろうとしてガクガクと膝を震わせるマデラインは、まるで誰かに押さえつけられているかのようだ。抵抗するかのように腰を浮かせては、また膝をつく。おお、超能力物みたい。
───さて、どうしようかな。
侮辱されて思わず手が出てしまった。負け戦にするつもりはないので、立場を利用する気は満々である。というか、私には他に武器がないからね。
「何があったか、うかがっても?」
見えない力でマデラインを押さえ込んだまま、レオノラが尋ねてきた。
「…食料とか人間ごときとか下等生物とか言われた」
「まああ!」
別に誤魔化さなくても良さげだな、これ。
人間界ならば私ごときがこの程度の侮辱を受けたところで、周囲は「ふーん」てなもんである。そして美少女をひっぱたいたことで私が悪役決定だ。うん、慣れてる(涙目)。
「王妃様になんということを!」
だからこの状況はちょっと落ち着かない。調子に乗らないように心掛けたいが、加減が難しい。
マデラインは憎々しげに私を睨んでいる。
「マデライン、あなたずっとそう思ってたの?」
「…当然だ。下等生物め」
「何でまた下等生物に仕えようなんて思ったの?」
不思議な感性だ。不愉快なら関わらなければいいものを。まあ、そういう輩は人間界にもいたけれど。
「お前などのためではないわ!
そっちかよ、と私は頭を抱えたい気分だった。とんだ修羅場だ。
怒りに顔を歪めていても、マデラインは美しい。陰の濃い睫毛が瞬くと、水晶のような涙がはらはらと落ちた。
…苦手なんだよなーこういうの。
そして、事案とはエスカレートするものなのだ。
ノックの音がして、馬頭の旦那様が顔を覗かせた。
随分とタイミング悪いな?
魔王の嫁は女子力が低い。 すべる @suberu
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