第15話 Am○zonで税込853円

 

「毎夜は勘弁してくれぬか…」


 と旦那様が泣くので(嘘)、同衾は三日に一度と決まった。

 そう書くとまるで私が色情狂のようであるし、実際あまり否定はできないのだが、今回に限ってはシロである。


 手を出せぬのに煩悶して寝不足になるのは辛い、と旦那様は言う。


 そう、私は、いい加減ヤレばいいじゃん!との説得に失敗したのだ。

 まあいい。日々戦っている人が、その方が心安らかだと言うのなら、そちらの意見を優先すべきだ。当然だ。

 その代わり、と提案されたのが三日に一度の共寝だった。その程度なら寝不足にも耐えられるのだとか。




 そんな朝である。

 ほやほやとした気分で目が覚めると、隣りには旦那様の気配。繋いでいた手に力を込めると、強く握り返してくれるのがとても心地良い。


「旦那様、おは…」




 ―――馬がいる。




 隣りに馬が寝ていた。正確を期すならば、馬頭の旦那様が寝ていた。ちょっとびっくりした。


「…ようございます」

「うむ、良い朝であるな」


 真正面顔なのにどこを見てるかわからない旦那様が言った。ブルルルルじゃねーよ。

 つい、起き出した旦那様の股間を凝視してしまう。だってほら、そっちも馬並みになったりするのだろうかと気になるじゃん? だが考えてみれば、頭以外が変化するという話は聞かないし、そもそも私は旦那様の旦那様を見たことがないので比較しようがないのである。ちくしょう、何が王妃だ。


「何を打ちひしがれておるのだ」

「何でもないです…」


 まあ、でも多分、これは馬じゃない。


「ケルピー…かな?」

「おお、よう知っておるな!」


 馬頭が驚きに目を剥いた。ヲタクなめんなよ?

 というわけで、下半身が魚の魔物に下世話な期待を抱いても仕方がないのであった。すっきり。




 しかし、新手の拷問かな?とは思うのだ。


 旦那様は毎日、公務という名の戦地指揮へと赴く前に、十時のお茶か昼食を一緒にしてくれるようになった。

 会えなくて寂しいと泣いた私への気遣いであることは疑いようもなく、本当に優しい人だと思うのだ。


 それが今日に限っては、私の腹筋を苦しめる。


「これ美味しいですね! 旦那さ…」




 馬。




 隣りを見ると馬頭。噛み砕いていたクッキーが鼻を逆流して死ぬかと思った。

 旦那様は悪くない。ケルピーも馬も悪くない。多分、私も悪くない。


 悪いのは元の世界でよく見た、馬のかぶり物だと思うの。


 そっくりなのだ。例のラバーマスクを装着した人に。まだ午前中なのに、既に腹筋が痛い。

 この状態であんな修羅場が起こるなんて、運命は意地悪だ…。





 

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