魔王の嫁は女子力が低い。

すべる

第1話 贅沢は素敵だ

 



「はー…お気楽、極楽」


 つい、子供の頃に好きだったTV番組のフレーズが口をついた。




 さて。

 私は今、真っ赤な薔薇の花びらを浮かべた風呂に浸かっている。一辺が10メートルはあろうかという巨大な風呂だ。ちょっとラブホのプールっぽいなという感想は意識の隅に追いやった。

 湯船とタイルは総サファイア。私の好きな宝石だと言ったら、旦那様が造ってくれたのである。熱い湯が苦手なせいでシャワー派だった私のために、湯温も常にほぼ体温と同じ37度で、これがもう、うっかり眠ってしまいそうなくらい気持ち良いのだ。


「王妃様、お世話させていただきます」

「うん」

 

 寝ぼけた声で応えると、サファイア色の薄衣をまとった侍女が二人、音もなく湯船に入ってきた。それぞれが手にしているのは―――ナイロンタオルである。

 これでごしごし洗うのが好きなのだ。しかもスーパーハードなやつだ。放っておいてほしい。

 ちなみに侍女たちは旦那様謹製、魔力でできたホムンクルスである。感情はない。

 だって、魔族の娘さんに王妃とはいえぽっと出の人間を洗わせるとか、ものすごく恨みを買いそうだし。


「気にせず使えばよかろうに。我に逆らう者などこの国にはおらぬ」


 呆れたように、けれど旦那様の掌から放出される青い光は徐々に人の形を成していく。


「何かこう、気が引けて―――あ、せっかくなんで美青年型にしてください」

「却下する」


 旦那様は思いのほか可愛らしいところがあるようだ。


 思い出して、ふふ、と笑みがこぼれる。

 あわあわごしごし。

 二人のホムンクルス侍女は程良い力加減で磨き上げてくれる。

 ああ、気持ち良い。




 いやぁ本当、死んで良かったなー。





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