第55話 100M 走

「プログラム6番、全校生徒による100M 走は

1年生から順に東口にお集まりください……繰り返します……」


「は~ 緊張しますね。

そろそろ行きますか?」


僕は一緒に座ってた青木君や奥野さんと一緒に

東口へ向かって歩き出した。


「僕、走るの嫌いです~」

「お前、走るの遅そうだよな」

「良いんです。

走るの遅いからって死ぬわけではありませんしね」

「そう言う猛はどうなの?」


奥野さんが聞くと、“走るのは得意さ”と、

どうやら青木君は、運動神経は良いらしい。


「奥野さんはどうなんですか?」

僕が尋ねると、奥野さんは、“至って普通”と答えた。


東口に集まると、各クラスごとに、背の高い順に一人ずつ並んだ。

不思議なもので、何故か各列毎に、

足の速そうな人が一人は居た。


一列になって並んでいると、

僕の隣の人が声を掛けてきた。


「赤城君って走るの早いの?」

「え? 僕ですか?」

「そう、そう。

君、この間生徒会長の体操服着てた人だよね?」

「あ~ そうですね、そう言う事ありましたね」

「ねえ、君って佐々木会長と付き合ってるの?」


まあ、予測される質問ではあったけど、


「何故そんなことを聞くのですか?」と尋ねた。


「俺、佐々木会長を追ってこの学校へ来たんだ」

「同中だったのですか?」

「イヤ、塾で一緒になって知り合ったのさ。

彼、カッコイイでしょ?

取らないでね」

「え? 取らないでねって……」

僕がびっくりしたように彼を見据えると、

「俺、Ωでさ、会長の事狙ってるから」

と僕に牽制を掛けてきた。


「あの……会長には婚約者が居るって……」

と言いかけると、

「君、バカじゃないの?

婚約者が居るくらいで俺が諦めると思ってるのか?

俺のフェロモンに掛かれば会長だって一発さ……

なんたってΩのフェロモンにあがなえるαって居ないからね。

既成事実さえ作ってしまえばこっちのもんさ。

妊娠しようものなら大成功だね」


僕は彼のそんな態度に少し恐怖を覚えた。

まさかフェロモンで人を操ろうだなんて、

佐々木先輩はこのこと知ってるのだろうか?

先輩は発情したΩに出くわしたら、

一体どんな対策を取っているんだろう?

少し心配になって来た。


僕が困ったように「あ……はぁ……」と言うと、

「で、何故、会長の体操服着てたの?」

とぶっきらぼうに再度尋ねてきた。


「あ……あの日は体操服忘れていたところに

偶然会長が居て親切に貸してくれたんだけど……」

そう返事をすると、

「な~んだ! 別に二人の間に何かあるって訳じゃないんだね。

まあ、君くらいの子だったら履いて捨てる程いるからね

やっぱり俺クラスにならないと、

会長程のαを落とすことは無理だよね」


そう言って櫛田君?(ゼッケンにそう書いてあった)

が僕を見下したように言った。


確かに彼はΩ特有そうな可憐で儚い雰囲気を持ち、

奇麗な顔をしていたけど、

見かけとは180度違った性格をしていた。


不意に現れた敵対するむき出しの感情に、

僕は早くも嵐の予感を感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る