第2話 帰郷

轟音とビルの振動に乗せて

少し漂う排気ガスの匂い。


大きなウィンドウから差し込む西日。


外には絶景な発着陸を繰り返す飛行機の波。


近代的ともいえる建物は、

素人でも目をみはるばかりで、

建築家だと更に楽しめるだろう。


そして聞こえてくる、


「OO航空よりお客様のお呼び出しを申し上げます……」 


「OO航空XX便にご搭乗のお客様は……」


「OO航空XX便東京行き……」


などの沢山の放送。


そしてガヤガヤと聞こえてくる

多くの人々の話声。


国際色豊かなこの場所は、

色々な国の言葉が行き交っている。


そしてビル内を行き来する多くの人の山。


中にはただ立っている人、

座っている人、

迷っている人、

待っている人、

急いでいる人、

眠っている人、

人それぞれ。


そう、今、僕達は日本へ帰る為に、

フランスのパリ=シャルル・ド・ゴール国際空港に来ている。


僕は、小さい頃から

ずっと入りたかった高校を中退して17歳の夏

母親の知り合いを伝手にフランス=パリへとやってきた。


右も左も分からないフランスで、

1からやっていくのは、簡単ではなかった。


でも、僕には他の選択が無かった。

いや、無かった訳ではない。

でも僕は最終的に、

日本から離れることを自分で選んだ。


フランス語学校に通いながら、

一年半後に日本語高校を卒業した。


そしてそのまま、

フランスの美術大学に進学する事に決めた。


大学では小さい頃から大好きだった、

水彩画を選択した。


在学中、かなりの絵を描いた。


また、色々な賞へも出展したし、展示会も開いた。


反響は悪くなかった。


でも、このパリに芸術家は履いて捨てる程いる。

僕はこのままパリに残り、

売れない画家として

細々と暮らしていくんじゃないかと思った。


それでも、日本へ帰る気は更々なかった。

きっと日本でも生活は

あまり変わらないだろうと思った。


日本には何よりも、会えない、

いや、決して会ってはいけない人がいた。


恐らく、会う確率なんてゼロに等しいだろう。

それでも日本へ帰ることに対し、

少しの不安が、何時も頭を離れなかった。

でも、思っても居なかった転機が訪れた。


僕の絵が、日本のアートスタジオの

オーナーさんの目に留まった。

僕の絵を色々な方面で商品化したい

と言う熱心なアプローチを受けた。


最初は何度も断った。


でも、将来の可能性を考え直した時、

僕はこのチャンスに掛けてみようと思った。


沢山の葛藤はあったが、それを期に、

思い切って日本へ帰ることを決めた。


そして何よりも、僕の小さな宝物を守りたかった。

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