消えない思い
樹木緑
第1話 プロローグ
僕には忘れられない夏がある
まだ残暑も残る8月の校舎
3階にある美術部部室
真っ白なキャンバスと絵の具の匂い
部室の窓から時折入るさわやかな風と木漏れ日
途切れることの無い蝉の鳴き声
入道雲と時折訪れるスコールとも呼べる雷と雨
誰も居ない夏の校舎の大きな木々に隠された窓は、
僕にとってはちょっとした、
ほんの小さな隠れ家的存在だった。
木造旧校舎の3階の隅にある部室には、
ほとんどと言って良いほど人が来ない。
ましてや、もうすぐ終わろうという夏休みの後半では。
そんな誰も居ない少しだけ木漏れ日が入る午後の部室で、
静かに微睡むことが好きだった。
僕の全てはあの時にあった。
愛する人のはにかんだ笑顔と僕を見つめるその瞳
風になびく柔らかそうな黒髪
僕の髪をかき上げるその長い指
僕の頬をやさしく包むその大きな手
頬をなぞりながらそっとくれるキス
彼の唇から愛してるとそっと漏れる吐息
隠れて何度も何度も熱いキスを交わしたあの校庭
暑さなど感じもしなかった。
ただ、ただ、彼の中に溶けてしまいたかった。
彼以外何も欲しくなかった。
何を捨てても構わなかった。
彼が好きだった。
凄く、凄く、凄く好きだった。
彼は僕の世界の全てだった。
でも、僕の永遠は、あの日に終末を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます