第2話

あの人が何をしているのか、家族がいるのかすら、私は知らない。


ただ、ここで夕日を見ていたとき、たまたま隣にいた。それだけの関係。


それでも、不思議な魅力を感じていた。この夕日と同じ。綺麗で、付け入る隙がひとつもない。完成されている。


自分が未完成だから、完成された何かに、憧れるのだろうか。


ライターを渡してから、あの人がここに現れることはなかった。


ここに来ないなら、探す。そして、あの人の煙草を点けさせてくれるような、人間になりたい。


完成されなくてもいい。あの人の隣に。


次にあの人の手がかりを見つけたのは、資料作成のアルバイトだった。


いくら頁を手繰っても、手首が頑丈なので疲れることがない。役所の資料は、ほとんど私の手によって綴じられていた。給金も良い。


当然、警察関連の資料も綴じる。信頼されているらしく、事件の資料も綴じていた。


そして、ひとつの事件で、それを、見つけた。


「私の」


ライター。


血で真っ赤に染まっていた。


どこかの抗争。


頭を撃ち抜かれた死体。


そして、ライター。


「どれが」


どれが、あの人なのか、分からなかった。


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