第44話 衝撃波が淫れる


(遊子視点)



――フオオオッ!


――ブワッ!


 校舎の陰から、女子達に取り囲まれたハルキを見守っていると、突如として突風が吹き抜けた。


――キャアアアア!?


 体内から溢れた精力による衝撃波……通称『精撃波』である。


「す、すごい……」


 ハルキは、男として壊れていたわけではなかった。


 むしろ、私が想像していた以上に育っていたのだった。


「たった3日溜めただけで……」


 思わず固唾を飲んでしまう。


 12人の女子は、ハルキの体からほとばしった精撃波を食らって、その場で腰を抜かしてしまった。


 きっと下着の中はお漏らしでグチョグチョであろう。


 かく言う私でさえ、軽くちびってしまっているのだから。


「えっ……! あっ……! みんなごめん!」


 なにか自分が悪いことをしたと勘違いしたのか、ハルキはしきりにペコペコと頭を下げている。


 こういうところは真面目な奴である。


「そ、そそそ……その! 返事はまたそのうちで!」


 そして、今がチャンスとばかりに、その場から逃げ出したのだった。


 私はその光景の一部始終を見て、改めてごくりと喉を鳴らした。


「良かった……」


 3日溜めただけで精撃波を出すとは、余程のことだ。


 精撃波は、淫魔の手によって鍛え抜かれた猛者のみが発する波動……。


 私だってまだ、数えるほどしかお目にかかったことがないのだ。


 もう少し育てればいける。


 私はそう確信する。


 実は昨日、男を漁りに、ウスキノに繰り出したのだが、お母さんに見つかってしまって怒られた。


『貴方にはまだ早いわ、それにハルキ君はどうしたの?』


 そう言って追い返されなかったら、私は今頃、処女淫魔ではなくなっていたかもしれない。


「危ない危ない……」


 危うく、最高の初体験を逃すところだった。


 ハルキはきっと、今からジムに行くんだな。


 ならば私も、ついていくこととしよう。


 今の精撃波を文字通り『食らって』、小腹も満たされたことだし――。



 * * *



(春木視点)



「なんだったんだ……?」


 俺の中で、暴れ馬の如き欲望が荒れ狂った瞬間、深沢さん達12人が、一斉にその場に崩れ落ちたのだ。


「一体なにが……」


 意味がわからないが、とにかく助かった。


 あのまま女子生徒たちに囲まれて続けていたら、理性が崩壊して、俺が俺でなくなってしまったかもしれない。


 俺はウォームアップも兼ねて、小走りで市営体育館へと向かった。


 荒ぶる欲望は、トレーニングでねじ伏せるに限る……。



 * * *



 更衣室で着替えて、通路に出る。


 すると……。


「来ちゃった……」


「遊子!」


 なんと、制服姿の遊子がそこにいるではないか。


「どうしたんだよ? 突然……」


「う、ううん……調子良くなったから、復活なの……」


「そうか……」


 ちゃんとご飯食べられるようになったんだな。


 良かった良かった……。


 マミさんが言っていたほどおかしな様子でもないみたいだし、俺はひとまず胸を撫で下ろす。


「じゃあそこで、着替えるの待っているわ」


「う、うん……」


 遊子はどこか照れくさそうに、更衣室へと入っていった。


 そうして、ジムの前のベンチに座って遊子を待っていると――。


「うふふふ……」


「おにいーさんっ」


「げええっ!?」


 リリさんとスズさんがやってきたのだ!


「げえー、はないでしょー?」


「傷つくー!」


「あ、ごめん……」


 昨日されたことを考えれば当然の反応ではあるのだが、俺はついつい謝ってしまう。


「す、スケベはしませんからね……!」


 今日は遊子だっているんだ。


 あいつの目の前で間違いを起こしたら、どんな目にあわされるかわからない。


「うん、わかったよ!」


「今日はスケベなことはしない!」


 ほっ……。


 俺はその言葉を聞いて安心するが……。


「その代わり、三人でいーっぱい♡」


「エッチなトレーニングしようねっ♡」


「!?」


 だが2人はそう言うと、俺の両脇に座って体をピッタリと密着させてきたのだ!


「なぁ……」


「スケベしようや……」


「ぬわああー!?」


 結局スケベじゃないか!


 そして2人とも、妙にオッサンくさいぞ!?


「あわわわわ……!」


 とはいえ、やはり女の子は女の子だ。


 柔らかくてすべすべしていて、そしてとても良い匂いがする。


 計らずも俺の内部で、先程の欲望が荒れ狂いそうになる。


 その時――。


「ちょっとあんた達……」


「あっ!」


「まずっ!」


 ちょうど更衣室から、遊子が出てきたのだ。


 遊子は俺たちの前に来ると、腕を組んで仁王立ちした。


「人の贄に手を出してんじゃないわよー! ふおおおおー!」


「うおっ!?」


――ワサワサワサ!


 目の錯覚だろうか。


 遊子のスポブラの隙間から、小悪魔のような形の羽がワサワサと飛び出たのだ!


「けちらすぞコラアアアアー!」


「うひゃああー!」


「ごめえええん!」


 すると2人は、まさに蜘蛛の子を散らすようにして逃げ去っていった。


「えっ!? ええ!」


 俺は我が目を疑った。


 目をゴシゴシこすって、改めて遊子の背中に目を向ける。


「あ、あれ……?」


 すると、背中の羽は消えていた。


 やはり目の錯覚であったのか……?


「まったく……油断もすきもあったもんじゃないわ」


「た、助かったよ……」


「ハルキも気をつけてね? ここは淫魔の餌場なんだから」


「ああ……」


 そういや、そういう設定だったな。


 ジムにはエッチな女の人がよく来るのだろう。(※)


「じゃあ、始めよっか! 今日はどこを鍛えるの?」


「え? うーんと、今日は背中だな」


「えっ♡ じゃあ今日も、背中で飛べるんだね!♡」


 遊子の表情が一気に輝く。


 よくわからんけど、こいつって背中鍛えるの好きだよな……。






※ あくまでもハルキの主観です! 実際のジムとは関係ありません!

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