第4話 故郷へ B

壁は所々に穴が開き、床はほこりにまみれた、無人で半壊状態の家。そんな中に俺とシエラは身を隠していた。

どうにも逃げ出せない状況にあった。天使達が周りをうろついて離れないからだ。未だ家に入ってくることはないが、それも時間の問題だろう。いずれこのままでは発見されてしまう。ならばと行動を起こすのも一手かもしれない。天使の包囲網から一目散に突破する。

しかし、俺はその案を一瞬で却下した。天使は異常だ。とても人間と同じ尺度では計れない。単純な力はもちろんのこと、その統一性。かくゆうこの状況も巧みな追い込み漁の感覚で作り出されていた。おそらく彼らは俺達がこの家に居ることを察しているのだろう。強行突破しようとしたところで無駄な足掻きだと考えた。

「……くそっ」

シエラは隣で蹲ったままだ。自分の脳も、最早打つ手なしと音を上げていた。

ユイからの連絡は未だない。時間と場所の選定に手間取っているのか。

とうとう終わりか、と俺は手を壁へ叩き付けた。

「旅の者よ」

しわがれた声だ。顔を上げると、 藍色のローブを被っている老人がいた。目元は見えない。杖で体を支えながら、僕たちを見下ろしていた。

「こちらに来い。安全な場所まで誘導しよう」

「でも外には天使が……」

「安心せい。早くついてくるのじゃ。それとも捕まりたいかの?」

俺は老人を信じる他なかった。


老人は天使達の位置を完全に把握しているかのように動いた。隙間を縫うように、歩いていった。

木々を抜ける。どうやら天使たちを本当に撒いてしまったようだった。

「ここからまっすぐにいけば集落がある。そこでやり過ごすといい」

「えっと、ありがとうございました」

頭を下げる。隣でシエラも小さく下げた。

「うむ。それじゃまたの」

「え? 待ってください……よ?」

まだ名前を聞いていない。そう伝えようとしたのだが。老人の姿はどこにもなくなっていた。足跡一つ残すことなく。

「何だよ……そりゃ」

夢でもみたのではないかという感覚が頭を埋めた。


「結局……誰だったのかな」

「さあ。神じゃないことは確かだろうな」

いまじゃ神様に付け狙われる存在だし。

老人の言われたとおりに行動し、集落までやって来た。天使の姿は見えない。ここなら安全に移動が出来そうだ。カギは世界を反映した。

「さてと……」

カギを握りしめ、何も無い空間で回す。優しい光が周りから集まってくる。それはいずれトビラを形作った。

この先に、地球がある。一度目の人生の場所で、一度目に死んだ場所。

今まで以上にどう転ぶか分からない。だが、不思議と体は軽い気がした。

そして、踏み入れる。視界は白に塗りつぶされていった。

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