耳に障る

韮崎旭

耳に障る

鳥の声 あいらしい鈴を転がすような常識がなくても分かる、鈴を転がしたらうるさいと。それは蠱毒だろう、だれの病を煮詰めたのか、缶切りが見つからない午後だ。人間の音がする。


 

憎らしい、調理器具が全部静置場所から転げ落ちたかのような音だ。ああ、耳に障る、消えてほしい、静寂がいくら恐ろしくてもそれは音楽を許すが、音楽は騒音を許さない代わりに、私がそれから離れることも許さない妖精の女主人かいいや時刻か、耳に違和感がある、気候が悪いのだろうか、耳鳴り、耳が詰まったような感覚、人が水を散らかすうるさくてかなわない音はそれでも聞こえる。


鉄道高架下の騒音の方が何千倍マシな人間の話し声も、水中にいるような耳の不具合の中でも聞こえる何が、突発性難聴だ、こんな地獄を聴き続けるなら難聴であろうが地獄に大差なく、文法的な誤りは追い打ちをかける困難な話法に。


虫の声 今年はあまりまだ記憶にないが、きっとうるさいうるさい喧しい喧しい鳥の、小鳥の囀りに、かき消されたのか駆逐されたのだろうよ、あの愛らしい鳥はグロテスクな虫どものはらわたを、その汚い臓腑で分解する故、私たちと同じ汚らわしい動物なのだが、獣だけが忌まわしいとどうして言えよう、すべてが障る、この隙間から覗く黒い竪琴の、貼られた弓のように、響く、最後に残る、焼き場の骨をつぶす音。


日が暮れても地獄。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

耳に障る 韮崎旭 @nakaimaizumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ