09. 共有
この病院に足を運ぶのも慣れてきたもので、手馴れたように面会手続きをする。
目指すのは…501号室。ノックをすると中から「はぁ~い」という返事。今日は起きているようだった。
「よぅ」
「あ、向山くん、いらっしゃ~い」
思ったよりも元気そうな夕海がベッドから半身を起こし、こっちを向いて出迎えてくれた。
「無理すんな…」
「大丈夫だよー少しくらい身体動かさないと……とはいってももう歩けないけどね」
舌をペロリと出しておどける夕海。どこまで夕海は知っているのだろうか。雄太はそんな夕海を見るのが少し辛くなり、話題を反らす。
「今日の分、見るだろ?」
「うん!」
雄太はスマホを動画再生モードにして動画を再生する。そして夕海に渡すとそこに映し出されたものは…
文化祭に向けて準備を進める教室の風景が映し出された。
【準備に参加できないのなら、参加している雰囲気の共有を】
そう思った雄太は、準備中の風景をスマホで撮ることにした。
『おいおい、また撮ってんのかよ』
時折、クラスメイトが物珍しそうに映像に映る。
「あはは、ここってこういう形の飾りにしたんだ!」
「あぁ、教室に入ってすぐに目に入るところだから」
撮った映像をメールで送ることも考えた。しかしそれでは『提供』はできても、その場で『共有』はできない。
そう考えた結果、準備風景を動画で撮影し、学校帰りに病院に立ち寄って一緒に見るという1日の流れができあがった。ここ最近ずっと続けている。
「文化祭当日も撮ってきてやるからな。笑いすぎてぶっ倒れるなよ?」
「大丈夫!覚悟しておくから!!」
屈託のない、その笑顔に雄太は癒され…
心で号泣していた。
-すまない…俺はお前を救えない
-今を一緒にいることしかできない
-でもな、お前は一人じゃない
-両親も
-クラスメイトも
-そして俺も
-みんな一緒だぞ
-だから一緒に思い出、作ろうぜ
文化祭の準備映像は楽しんでもらえたようだった。もちろん思い出は共有できた。
そして、文化祭当日。
女装メイドに男装執事が画面に流されると、大いに笑ってもらえた。
涙を流しながら笑っていた。
その涙が笑い過ぎてのものなのか、自分が参加できなくてのものなのか。
表情から窺い知ることはできなかった。
みんなからの応援メッセージも入れてもらえた。
それを見た夕海は笑っていた。
そして泣いていた。
とても美しく、とても儚く、
とても満足げに…
残される者にできること…それは…
思い出を提供すること
楽しさを提供すること
悲しさを提供すること
提供することで共有する
雄太と夕海…
二人が共有することで
共通の話題を作ろう
共通の思い出を作ろう
共通の楽しさを味わおう
共通の悲しさを分け合おう
共有することで雄太も夕海も
二倍にも三倍にもなるものがあるから…
それは……
そして文化祭が終わってから1週間後…
彼女は天使になった。
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