01. 苦労委員長
私立旭丘学園。都区内某所に位置する中高一貫の学校である。
盛んな部活は多くはなく、どちらかというと学問に重きをおく進学校である。
夏から秋に向けてゆっくりと進み、暑さもやっと落ち着いてきたある日の放課後、
今日の授業も終わり、校内は部活動に励む者や委員会活動に向かう者、そして、帰宅する者で学内は喧噪に溢れている。
2-Aと書かれたクラスも例外ではなく、廊下の外にまで騒々しさが漏れ出している。もちろん、授業は終了しているので問題はないのだが…
「ちょっと!静かにしてください!決めるに決められないじゃないですか!!」
喧噪に乗じて少女の悲鳴のような声が聞こえてきた。しかしその声もクラスの喧騒に押され気味である。
「だってよ~もう帰りたいんだよ…持病の癪がひどくてさ~」
「何かの喫茶店でいいんじゃね~?」
「委員長が勝手に決めてくれよ」
「もう何でもいいよ」
「私もそろそろ部活行かなくちゃ…」
どうやら何かを決めるのに足並みが揃っていないようである。
座っている隣同士で雑談をする者、
居眠りを決めて机に突っ伏している者、
彼女の問いかけに好き勝手に意見を言う者など、
まともに相手にしているようには見えない。
「え…ちょっと…で、でも!今日までに決めなきゃいけないんです!」
教卓に立つ少女。長い黒髪は背中まである、スカート丈は膝上、制服は着崩していない。
まさにクラスの誰かが言った『委員長』という言葉がそのまま似合う容姿であり、
さらにいうと『清楚』という言葉が似合う。
しかしながらその少女は今にも泣きだしそうな顔となってしまっている。
「みんな用事があるからさ!」
「大丈夫だよ!委員長よろしく!」
「じゃ、そういうことであとは頼んだ!」
その言葉が引き金となり、癪がひどいと言った男子生徒をはじめとした多くのクラスメイトが帰り支度をはじめた。
帰り始めたその姿を見て、半ば諦め顔の少女。
「そ、それじゃ残った人たちで決め…」
『バンッ!』
少女が残った数少ない生徒たちで話を進めようとしたその矢先、机を叩く大きな音が教室中に響き渡った。あんなに騒々しかった教室が、その音一つで静まり返った。
何事かと多くの生徒の目線が発生源へと向けられる。
その目線を受け、音を立てた主の言葉が静かな教室中に響き渡る。
「お前らはクラスの内容を決めようとしてるのに、少しは残ったり黙ったり、話に参加しようとしないのか?」
帰ろうとしていた者、部活などに行こうとしていた者、居眠りをしていた者…
雑談をしていた者…教室にいた全ての者の動きが止まった。
そして、帰ろうとしていた生徒たちを睨みつけながら彼から浴びせられる一言。
「帰るのは勝手だが、決まったものにあとから文句言うなよ?」
これによりごく一部を除き、生徒が話し合いに参加する姿勢となった。
「こ、向山ぁ~厳しいなぁ~何も言わないよ」
そんな睨みにも少しびくびくしながら回答した癪の男子生徒。彼はそのごく一部となるようである。その生徒を向山と呼ばれた少年-向山 雄太-がさらに睨みつける。
彼はクラスの中ではあまり発言はしない。しかし困った時には手を差し伸べてくれたり等、世話焼きな面があることを一部のクラスメイトは知っていた。
だが、いつも顔には仏頂面が張り付いており、クラスメイトからは『声をかけづらい』という損な面も持っていた。
そんな彼が、話し合いに全くもって不参加を決めている生徒に噛みついた。
「春日…お前確か、春の体育祭のときもそうやって丸投げにして帰って、
あとから『こんな学年種目やりたくねぇ!』とか文句言ってなかったか?」
そう質問した途端、
「げっ!!!!そんな前のことを!」
癪の少年=春日は顔色が変わった。
「い、今はその時のこととは関係ないだろ?」
「そうか…関係ないか…それじゃ帰ってもいいぞ」
開放された!と思い、いそいそと扉から出ようとした春日に投げかける最後通告。
「但し!!二度と出し物の件で後から文句言うなよ!言ったときは…分かったな?!」
「チッ!」
雄太の声が春日の背中に届いたのだろう…春日は舌打ちを残し、逃げるように去っていった。
「あ、ありがとう、向山くん」
委員長と呼ばれていた黒髪ロングの少女-
向山の席にお礼を言いに来た。
「いや、構わないが…委員長も人が良すぎる。このくらい言って然るべきだ」
「で、でも…みんなも都合あるだろうし…」
「他人の気持ちを考えるのも大事だ」
どうやら人が良すぎて、色々と言い出せないのだろう。雄太は「だがな?」と一言添えた後、
「今はクラスで決めごとをするんだろ?少しでも残ってもらえるようにするんだ」
「う、うん。今度からそうするね」
こくこくと頷く夕海。
「今なら春日以外はほとんど残ってるから、さっさと決めちまおう。あいつには文句一つも言わせないから安心してくれ」
「あ、ありがとうね、向山くん」
照れからか、夕海は少し頬をピンクに染める
「お礼はいい、さっさとやっちまおう、俺も手伝う」
そう言いながら雄太は教卓に向かった。
「さっきは大声出して悪かった」
そう声を上げ、残ったクラスメイトを見まわして、
「みんなも用があるだろうからさっさと決めちまおう、俺ら2-Aの文化祭の出し物を」
そしてクラスほぼ全員参加での出し物決めがはじまった。
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