第十話

 

Ωの男はαのつがいを得た瞬間から、

番だけの子供しか受胎しない身体になる。


もしも、そのあと他のαやβの男に無理やり犯されようとも、

つがいの精子以外と受精をしない身体に変容する。

それはつがいとなったαが、この世を去るまで続くほど、

Ωの男はつがいと固く結びつく。


それだけに、何かの理由でαから無理やり引き離されてしまった場合、

Ωの男は生殖機能に最も重い傷を負う。

α側から一方的につがいを解除されるなど、

Ωが心に受けた衝撃が深ければ深いほど、

その後もつがいだったα以外の子供まで孕めない身体になってしまう。 


つがいを解除されたにも関わらずに、だ。


そのつがいを目の前で、なぶり殺しにされた自分も例外ではない。


Ωの中にはつがいを失くした心の傷が癒えるにつれ、生殖機能も回復し、

やがて別のαと新たにつがいになる者もいる。

けれど、今の自分が『産めない身体』であることは厳然たる事実であり、

永遠に覆せない現実でもある。

 

サリオンは自分が受けた心の傷が癒える日が来ることは、

死ぬまでないとわかっていた。


「だから、お前はお前の勤めを果たせばいい。俺もお前専属の下男としても友人としても、できる限りのことをする。いいな? レナ。わかったな?」


探りを入れてくるようなレナの注視に堪えられず、

返事を待たずに身を翻して居室を出る。

柱に取りつけられた燭台が点々と照らす薄暗い廊下でレナを待つ。

すると、程なくレナもドアを押し開け、現れた。

 

強引に話を打ち切られ、レナは当惑の色を眉の辺りに浮かべたが、

それ以上の追及は諦めたように伏し目になる。


レナは先導するサリオンに付き従い、

アルベルトが待つ饗宴の間まで無言で歩いた。

レナも硬い顔つきで、口を噤んだままだった。


饗宴の間がある別館から、既に賑やかな笑い声が聞こえてくるのに、

しんとした廊下にサンダルのだけが、どこか冷たく響いていた。

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