貴女の為だけのチョコレート

代永 並木

第一話

いつも通り学校への道を歩く


「何考えているの? 上機嫌だけど」

「いやぁ、ちょっとね」


ゲームで前のシーズンTOP10に入れた事が嬉しくて今日は登校時には珍しく機嫌がいい


「変なの」

「変かな?」


いつもと同じく親友の新川綾女と登校していた

小さい頃からの友達

文武両道、才色兼備、学年いや学校一の人気者とまで言われている

彼女には欠点という欠点が無い

そんな彼女と共に登校している私はと言うと……元引きこもり、コミュ障でオタク、絵に書いたような陰キャだ

名前は如月由衣


「今日はバレンタインだけど誰かに告白する気?」

「するかも……しないかも?」

「何で疑問形なの?」


首を傾げる私を見て上品に笑う

ははは、私のような陰キャには関係の無いイベントですよ綾女さん

……いや待て、確か今年は好きなキャラのバレンタイン衣装有ったな本気でやるか


「今日はバレンタインだったね〜、綾女は誰かにチョコ上げるの? 告白するの?」

「しないよ〜。今年はチョコも上げないつもり」

「去年やばかったらしいからね。それに綾女に告白されたらその子殺されると思うし」

「……ないとは言い切れないのが怖い」


人気者には隠れファンが居るのは常識であるのだ

告白現場なんて見つかれば捕獲、拷問云々が行われるだろう

いつもとは内容が少し違うがいつもと同じく雑談を交わす

学校に着いてからも一緒に教室まで向かう

私と綾女は今年は同じクラスなのだ〜

教室に入ると男子生徒がソワソワしているのが分かる

まぁ、バレンタインでチョコ何個貰えるかなぁって奴だろうけど……大抵ゼロ個かクラス全体に渡される奴1~2個

席に座り周りを観察する

男子生徒がチラチラ綾女を見ている

それが面白くて机に顔を伏せて笑う、一番後ろの席なので誰にも悟られない

担当の先生が教室に入りHRが始まる


「今日はバレンタインだが浮かれて問題起こすなよ〜。貰えなくて問題起こすのも辞めろよ〜」


軽い注意喚起をしてHRが終わり1時間目の授業の準備時間になる

私は教科書やノートを出して待機する

1時間目の授業担当の先生が来て授業を始める

授業内容なぞ聞かずゲームのイベントどうしようかなと呑気に考えつつ片手でスマホを起動してゲームをやって時間を潰す

影が薄い事もあり大抵当てられずに済む


「これぞ陰キャのスキルよ」

「何言ってるの?」


昼時間になり弁当を脳天にチョップを食らう

前の人から椅子を借りて綾女が机を挟み座る


「いっ、痛い〜。暴力反対!」

「また携帯使ってたの? 授業中くらい携帯使わないように我慢出来ないの?」

「スマホ依存症の人からスマホ奪うとその人精神崩壊します、そして我慢出来ない!」


私は真剣な面持ちで言う

まぁ、真剣な面持ちで言うような言葉では無いが


「そんな訳ないでしょ? 次使ってたら授業中でも一撃お見舞するからね」

「無理でしょ。真反対とは行かずとも結構離れてるんだから」

「方法はあるよ。それよりコレ見て」


こっそりと手紙を綾女はこちらに手渡す


「今時珍しいとされるラブレターですな〜、何通?」


男子生徒の名前が書いてある

知っている名前……というかこの手紙の主はこのクラスの人間だ


「4通」

「ほうほう、で? どうするの」

「無視するのは駄目だと思うし言っては見る」

「まだ中身は見てない?」

「見てないよ? それが……」


中の紙を取り出して天高く掲げて端を両手で持ち


「えい!」


全力で手紙を引き裂く


「えぇぇぇ!?」


綾女は私の行動に驚いている

綾女はと言うよりこっちを見てた全員が唖然としていた


「優しいのはいいことだけど興味無いなら無視した方がいいよ。全部反応してたら疲れるでしょ? 綾女の評価下がらないようにヘイトは私が稼ぐから」


残り3つのラブレターも破く

男子生徒の一部が恐怖している

恐らくラブレターの1つを書いたやつを知っているのだろう

後でこっそり捨てるなどもできるがそれだと綾女を恨む人間も出てくる

なので綾女が内容を知らない内に破いて捨てるのが1番

そして私がヘイトを稼ぐ、任せろ私は敵のヘイトを集めるのが得意だ(ゲームではよくタンク役をやりたがる人)


「良いのかな……」

「内容見てないから綾女は行けない。こう言うのは真正面から言ってきたら返事を返せばいいよ」

「分かった! そうするよ」


笑顔で言ってくる

昼時間が終わり残りの授業が始まる

綾女は昼時間に言っていた事を実行してきた

またゲームをしていたら額目掛けて物体が高速で飛んできた

私はfpsで極めた反射神経やら何やらでその物体を避けようと試みるが元引きこもりも身体能力で避けられる訳もなくヘッドショットを食らう

悲鳴も上げずに無言でダウンする

授業中気付かれず時間だけが過ぎていく

恐ろしい事に誰も綾女の攻撃に気づいていない

欠点無いとは思っていたけどまさか暗殺スキルも持ち合わせているとは思わなかった……


授業が終わり帰りのHRも終えて直ぐにバックを持って綾女の元に行く


「へい、彼女帰ろうぜ!」

「何その謎のノリは?」

「何となく! と言うか何飛ばしたの? 投擲? 暗殺スキル持ち?」

「紙を丸めた奴だよ。ゲームじゃ無いんだからスキルは無いよ〜」

「……あの殺人攻撃は今後禁止」

「授業中にゲームしなければ飛んで来ないよ」

「はーい気をつけまーす」


棒読みで答える

帰路を辿る際に綾女からチョコを貰う


「わぁい、チョコだ〜」

「喜んでくれて嬉しい」

「何チョコ?」

「甘めの手作りチョコ、ちょっと入れてるけど」

「甘めは助かる。苦かったらゴミ箱にぶち込む」

「ちゃんと甘いよ。貰った物ゴミ箱にぶち込むのは辞めようか」


苦笑いしている

私は苦いのが苦手なのだ

帰ったあとチョコを食べた

食レポ、程よく甘く美味しかった……以上!

そしてバレンタイン衣装手に入れた(課金)


〜〜〜


家に帰り私は笑う

今日の彼女の行動はいつもとは違っていた


「あぁ、今日はかっこよかったなぁ〜由衣ちゃん」


私の貰った処理に困るゴミを彼女は破ってくれた

ラブレターは内容を見てその場所にその時間に赴き断っていた

いつも面倒に思っていた、どうせ断るんだから無視しようかなとも思ったことがある

でもそんな事をすれば何が起きるか分からない。彼女の言う通り恨まれる恐れもある


『綾女の評価下がらないようにヘイトは私が稼ぐから』


その言葉通りヘイトを集めるように天高く掲げて破り捨てた

4通全てをその場でだ、名前を見て同じクラスの人がいると分かっている筈なのに

彼女は陰キャと呼ばれるタイプの人間だ、人気者の私とは釣り合わないなどと考える人も居る

前に色々と言われた事あるけど……巫山戯るな!そんなゴミみたいな価値観を押し付けるな由衣ちゃんは私の親友でかけがえの無い人

私と由衣ちゃんの関係を邪魔する奴は殺す


「可愛くてかっこよくて愛おしい」


今日撮った写真を見てニヤける

彼女の為に作ったチョコは食べてくれただろうか?

隠し味を入れた彼女1人のためのチョコレート


「気付かないよね? 気付かれたら引かれるよね? 怖いけど背徳感が堪らない」


スマホには彼女の写真を沢山撮っている

私は素早く正確に写真をブレずに取れると言う特技がある

無音カメラアプリを使えば標的にバレずにどのタイミングでも取れる

誰にもバレずに物を指で弾いて攻撃する由衣ちゃんが暗殺スキルと言っていたあれはそれの応用


「今日は寝よう」


直ぐに宿題を終わらせて寝る準備を終えて眠りにつく

翌日起きて準備を済ませて彼女の家へ向かう

由衣ちゃんの家は学校と私の家の間にあるので朝早く起きてスマホでモーニングコールして準備を手伝って登校する


「う〜ん」

「由衣ちゃん起きて〜、起きないと目覚ましであれ使うよ?」

「それは永眠するからパス」


可愛らしい寝起きの声を聞き1人和む


「なら起きてね〜、そろそろ着くよ」

「分かっ……痛い」

「ちゃんと目を開けて歩きなよ〜」

「なぜ分かった……」

「いつもの事だから」


チャイム鳴らして由衣ちゃんの両親に中に入れてもらう


「いつもありがとうね」

「由衣ちゃんの為ですから……」

「由衣が男だったら良かったのに」


由衣ちゃんの母親である透子さんがそう呟く

確かに由衣ちゃんが男だったら……いやでも可愛さがなくなるのもなぁ

声には出さずに悩む

由衣ちゃんの部屋に着きノックして開ける


「?」

「私だよ〜、はいはい、パジャマを脱いで〜」


パジャマを脱がして制服に着替えさせる

肌綺麗、可愛い、いい匂い……私の可愛い由衣ちゃん一生世話してあげるからね?

私は微笑を浮かべる

その笑みは感の鋭い人は怯え恐怖するだろう

最も視線の先にいる人物は気付かない


「何か言った?」

「えっ?何も言ってないよ〜。早く着替えないと遅刻するから急いで〜」


やばい、言葉に出てたかな?


「ジー」

「それって声で表現するやつだっけ?」

「多分違う、まっいいか。目が覚めたかも……ご飯!」


着替え終え直ぐに扉の方へ向かう

部屋を出る直前に振り向き


「チョコ美味しかった、バレンタインじゃなくても時々頂戴! 愛してる!」


そう言い残し走っていく


「勿論、何度でもいつでも上げるよ。貴女の為だけのチョコレートだもん。私も由衣ちゃん」

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貴女の為だけのチョコレート 代永 並木 @yonanami

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