怪物を飼ってます

一子

第1話

深夜一時、月の光で照らされる川。コンクリートの階段に腰掛けた。

月なんか消えちまえ、嫌な記憶が蘇る。

煌めく川を美しいと思いながらも、どうしても月が許せなかった。

タバコを咥えて火をつける。

鈴虫の声が煩い。

イヤホンを付け、再生ボタンを押すと嫌いな歌が流れた。憎たらしい声、あの男の好きな声。眠らせていたはずの何かが目を覚ました。拭い取ることの出来ない負の感情が、発作の如く爆発する。

怪物でも飼っているようだ。

二本目のタバコを吸う。実はこのタバコも、私の嫌いな人間の吸っていたのと同じ物だ。きっと人は、好きな人よりも嫌いな人や許せない人に関心を持つのだと思う。私の嫌いな誰かは、私の恋人の最愛だった。でも彼よりも私の方がたぶん、その人を知っている。Twitterの他のアカウントも、他のツールの界隈も、その人の好きなカップラーメンの種類も、好きな色も、身長も知っている。

集めていた写真をアルバムから開いた。

一瞬息が止まった。劣等感に襲われた。耳からは声、目からは顔、私の勝てない物が私を突き刺した。

落ちていた石を月に向かって投げた。届かなかった。涙が零れた。

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