神々の闘争 War of the spirits
ラザニャン
プロローグ・決戦前数晩
丑三つ時──。
生命の活発な活動が休止し、落ち着き始めた頃にそれは現れた。
昼間の陽熱の名残り、大地の微かな温もりが静寂な夜に貪食され、虚空から漏れ、地表に邪悪な空気が漂い始めた。
空間の裂け目から濁黒に塗り潰された瘴気が溢れ、凝縮し、立体的に生成されていく。
人の姿をした人外〈魔族〉。
暗闇で見たら人間となんら変わりはないが、光を当てるとその異質さが瞬時に理解出来る。
瞳のない眼球。青黒い肌。両側頭部から生える2本の角。腕の鱗と思われる部分が鋭利に主張し、全身に濁黒の
まさに、悪魔と呼ぶにふさわしい容姿。
常人が目撃してしまえば、骨の髄から恐怖し、たちまち動けなくなってしまうような死神の殺気を放つ。
〈魔族〉は上空、地上、壁面から産み落とされるように大量に出現し、瞬く間に数えきれない程まで生成されていく。
「──100、200……300やね」
〈魔族〉の大群から少し離れた1棟の建物。屋上に設置されている一対のアンテナに、満月の夜光で背後を照らす2つの影がその大群を見下ろしていた。
「行けるんかね」
「このくらいならな」
片方の影はこくりと頷いた。
すると、もう片方の影がすっと手を挙げる。
「突撃ーー!!」
咆哮が響くと同時に──。
「「「「おおー!!」」」」
──と、後ろからの複数の声に合わせて、いくつもの影が屋上、開け放たれた窓から飛び出していった。
「「「「うぉおおおお!!」」」」
地鳴りのように鳴り響き、揺れる大地を数十という人影が魔族大群に向かって突進していく。
『『『『オオオオオォォッッ!!』』』』
〈魔族〉も、〈精霊魔術〉と〈異能魔術〉に呼応して人影を轢き潰す勢いで発進した。
そして──〈魔族〉と人影が衝突。
誰一人、人外の殺気に怯むことなく、迎撃を開始。
乱闘音、斬撃音、空間が歪む音、あらゆる戦闘音が至る所から絶えることなく溢れるが、それ以外の足音や掛け声などの騒音は一切聞こえない。
無駄が無く適格に、蔓延る〈魔族〉のみを襲撃する。荒々しい戦闘風景からは想像もつかない、凄まじく繊細な立ち回り。
そして、一角では一回り巨大な〈魔族〉数体に、2対の大翼が映える〈霊装〉を
「レイン、一気に行くぞ!」
『おっけー! マックスパワーでゴーだよ!』
意識下に響く明るい返事と共に、スウッと軽く息を吸った。
「『
〈天使〉の力を得た少年がもう1つの声の主と一声したあと、少年の手のひらに光粒子が収束し、1本の実体のない剣が顕現した。
剣先の光の粒子が分子振動を起こし、強い光を放つ。
タンッと、軽やかな足さばきで〈魔族〉の間を縫って周る。
「【レイ・ブレード】!!」
輝く刃を振り抜くが、剣の長さが僅かに足りず、寸のところで避けられる──ことは起こらず、鋭切寸前に剣先が伸長し〈魔族〉の1体を両断する。
『『『『────アオオオォォッッッ!!』』』』
仲間を切られた〈魔族〉はいっせいに雄叫びを上げ、数の総力戦を仕掛けた。少年の身体が一瞬だけ残像のようにブレたことに気が付かずに──。
「──チェックメイト」
コンマ数ミリ秒の出来事。少年の言葉と同時に、
「うん、今回も無事終了やね」
わずか数分の出来事──。
凍てつく冬空の中、先程まで〈魔族〉と争っていた人々が、白色の吐息を漏らしながらそれぞれ思い思いに口を開き話している。
その中で、カランッという下駄独特の音を響かせながら、リーダー格の青藍色が特徴的な縮髪の美青年が少年の傍に近づいて来た。
「
先程屠った〈魔族〉の跡地を見つめていた少年に声をかけた。
「この程度で心配なんかしなくて平気だよ。
少年──
少年の体が淡く光って〈霊装〉が解除され、2対の大翼と共に光の粒子となって散った。
「それに今回は〈中位魔族〉が少なかったから、物足りないって感じるくらいだったし」
「おや、おいの記憶違いかね? 2年前、
「やめろぉ、掘り返すなァ!!」
思わず顔を赤くして叫んだ一際大きな恥声が、一般人の気配が全く感じられない高層ビル間を反響する。
「──でもさ、今の魔族があまりにも弱いやつしか出てこないから不安なんだよな」
一度深呼吸をして平常心を取り戻した──若干赤みがかってはいるが──
「そうやねぇ……嵐の前の静けさでなければいいんやけどねぇ」
「って言っても、もうそろそろだからな。覚悟だけはしておかないと」
「世界の命運がおいの弟子にかかってるってなんか不思議な感じやね」
「ちょっと待て。いつ俺は
「さぁて、いつやろうねぇ」
クスクスと微笑しながら、残りの面子も各々解散して行った。
本部に帰ると、180cmは
「おかえり。早速で悪いけど次の準備を頼めるか?」
すると、
「座標はわかるんかね?」
「もちろんだとも。
「今度はどんな奴やね?」
「──奴、というより場所だな。ねじれの中だ」
白衣の男の発言に2人は言葉を詰まらせる。
「そうか、ついに……」
──
──さあな。
だが、もしかしたら、貴様なら余の野望を叶えられるのかもしれん、と。貴様に期待しているのかもしれんな。
──約束だ、
「
「構わんが、なんのためにだ?」
白衣の男性──
「その、会いたい奴がいるんだ。そんなに時間は取らないからさ」
「こんな時間にか?」
「ああ」
「わかった。アイン殿には、ぼくから説明しておく。30分だけだぞ。やることが溢れかえってるんだからな」
「ありがとう、助かるよ」
その会話を最後に
「もうすぐだ。待ってろ、レナ──」
そして──誰にも聞こえない声で、拳を握りしめながら呟いた。
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