弁財天さまへ

くっきぃ♪

第1話

菜月なつき、土曜のバイト、休みになったから、出掛けようか?」


学食でランチを食べながら、凛太郎りんたろうが言った。


「いいの?」


私は、嬉しくて舞い上がる。


 私たちは、3ヶ月前、凛太郎に告白されて付き合い始めた。私にとって初めての彼。私も凛太郎も地方出身で、東京のことにはあまり詳しくない。それでも、友人に聞いたり、ネットで検索したりして、人気のデートスポットを回っている。


 ただ、2人とも生活費を稼がなくてはいけないので、バイト優先で、なかなか休みが合わない。1日休みが合うのは、とても貴重だった。


 私は、ずっと行きたかったジブリ美術館をリクエストして、2人で出かけた。手を繋いで館内を回り、ひとつひとつの展示に感動し、短編映画に涙した。ネコバスには子供しか乗れないみたいで、眺めることしかできなかったけど、それでも憧れの世界に触れられて、大満足で美術館を後にする。


「この後、どうする?」


凛太郎に聞かれて、私の目は、すぐ目の前の木立に吸い寄せられるように向かった。


「ここ、公園だったよね。お散歩でもしようか」


 私たちは、やはり手を繋いで、井の頭恩賜公園をのんびりと散歩する。


 しかし、木陰を歩いているとはいえ、晴れた7月の公園は、少し汗ばむ陽気だ。手を離したくはないけど、手汗が気になる。凛太郎に手がベタベタしてるとは思われたくない。


 そんな時、目の前に池が見えてきた。キャッキャと楽しそうにはしゃぐ声が聞こえる。見ると、ちょうどこちらへ親子連れのボートが向かってくるところだった。一生懸命漕ぐお父さん。楽しそうな笑顔を浮かべながらも、大人しく座ってる5〜6歳くらいの女の子。それより小さな男の子は、ボートから身を乗り出して、落ちそうになっている。それを見たお母さんは、男の子を捕まえて叱っている。水辺はとても気持ちよさそうだった。


「ねぇ、凛太郎、ボート漕げる?」


私が凛太郎を見上げて尋ねると、凛太郎はふんっと鼻を鳴らすように答えた。


「あれくらい、誰だってできるよ。菜月、乗りたいのか?」


「うん」


頷く私の手を引いて、凛太郎はボート乗り場に連れてきてくれた。


 先に凛太郎が乗り、私の手を引いてくれる。乗った瞬間にボートが揺れるので、驚いた私は、

「キャッ!」

と凛太郎にしがみついた。

「おっと!」

凛太郎に支えられて、私は、ゆっくりとボートに腰を下ろす。見ている時は気づかなかったけど、木の上に直接座るボートは、決して座り心地は良くない。それでも、大好きな凛太郎と2人きりでゆったりとした時間を過ごすのは、とても楽しくて幸せな時間だった。

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