第13話 プロバスケ観戦①

2月16日(日)。


今日は全体練習は休みである。プロ野球選手といえど、毎日練習ばかりでは精神的に持たない。競技から完全に離れる時間もアスリートには必要だ。


「あーなんか久々の休みだね!」


チームで最も練習熱心な美紀も、さすがに今日はリフレッシュすることを選んだようだ。昨日、連日のハードワーク故に精彩を欠いたプレーを連発し、祥子に練習時間が長すぎることを指摘された。他の選手も心身ともに疲労がピークに達している様子だったため休日返上で練習することを全面的に禁止されており、今日は選手たちは半ば強制的に休日を謳歌させられているのである。


そんな中、美紀と雫、そして真衣の3人はグラウンドではなく体育館へ向かっている。プロバスケットボールリーグのファルコンズの試合を観に行くためだ。


「イケメンいますかねえー♪」


練習中には決して見せないニヤニヤした顔で、雫がぴょんぴょん飛び跳ねながら言った。やはり野球をしていないときは普通の女の子なのだ。


「同じ神奈川のプロチームってことで、向こうも美紀さんと雫ちゃんの顔を知ってるかもしれないですね!なにか交流ができれば嬉しいなあ…あ、一応社用スマホ持って来たんで、公式アカウントから観戦してる様子もアップできます」


真衣は休日にもかかわらず仕事をする気満々だ。選手の休日自主練を禁止しているのだから、真衣にも同様に禁止令を出すべきだったのでは。


「さあ、ここが通葉アリーナだよ!」


そこに広がっているのは、全面緑の壁に覆われた、横に大きく広がる壮大な建物。今まで見たこともないような形をしており、3人はただ驚愕していた。

競技は違えど、ジュピターズのホームグラウンドである通葉市民球場とは明らかに格が違う。通葉アリーナはいかにも「プロが試合をするところ」という佇まいでどっかりと駅の近くに立っている。

アクセスも良く、駅からバスを乗り継ぎ、さらにバス停から15分ほど歩かなければならない通葉市民球場とはその点でも優れていると言える。


「なんか、華やかさが女子プロ野球とは違いますね…私たちも将来こういうキラキラしたところで試合がしたい」


雫がボソッとつぶやく。通葉市民球場はジュピターズの専用施設ではなく、一般に開放されている野球場をジュピターズが試合ごとに予約をしているのだ。

一方、通葉アリーナはファルコンズが保有する施設の1つで、男子プロ野球の本拠地のように専用アリーナとして使用されている。

イベントやショップも充実しており、アリーナは試合がある時はいつもお祭りのようににぎやかだ。


「まあ、今日は野球のことは忘れて、がっつり楽しもう!ね、雫ちゃんイケメン探すんでしょ!」


「あ!そうでした!目の保養…!」


四六時中野球のことばかり考えてしまいがちな雫を、今日だけは仕事から解放してやりたい。美紀はキャプテンとして、選手の精神状態をも気にかけているのだ。


アリーナの中に入ると、試合開始90分前にもかかわらずすでに沢山の観客であふれていた。女子プロ野球とは違い、若いファンが多い。特に女性が多いことに、3人は驚愕していた。


「こんなに若い女の子多いんだ…。やっぱり若い世代を惹きつける演出が多いのかなぁ」


真衣はグッズ売り場のエネルギッシュな様子を見て、かなりワクワクした様子だった。


「美紀さん、真衣さん!私たちもTシャツ買いましょ!なんか楽しくなってきちゃった」


「こんな可愛いのあるんだ!いいね、買おう買おう!私あの緑のやつにする!」


売店の列に並ぶ3人。完全に野球のことを忘れ、ただのファルコンズファンになった瞬間だ。


ピンクもある!可愛いなあ、緑のやつしかないと思ってたましたけど、女性目線のグッズもたくさんですねえ」


グッズの種類も女子プロ野球より多く、様々な年代や性別のニーズに応えた商品がたくさんある。3人は目に映る一つ一つが自分たちの数段上であることに少し悔しさを感じながらも、ワクワクした気持ちがそれを大きく上回っていた。


一行はグッズを一通り買い揃え、座席へ着くためにアリーナの内部へ向かう。アリーナもまた非常ににぎやかで、リーグの公式テーマソングが流れる中で選手がウォーミングアップを行っていた。


「わあ…いったいどんな試合になるんだろう…」


雫は一歩試合会場に足を踏み入れた瞬間、あまあまりの華やかさに立ち止まってしまった。


ここで3人は一体どんなドラマを目にするのだろうか。


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