第11話 反省会

「よし、みんな。今日は練習終わりにして、シャワー浴びてご飯終わった後ミーティングやろう!20時からね!」


美紀が選手25人全員に声をかけた。2020年の初実戦を終えたジュピターズ。練習試合とはいえ、わずか1安打で4-1の敗戦。キャプテンを務める身として、お世辞にも良いとは言えないチームの状況に居ても立ってもいられない状況だった。昨年までなら監督がすぐに選手を集めてミーティングを行っていたが、今シーズンは監督主催でのミーティングは一切行わないようだ。選手自身が主体的に考え、今後どうするべきかを自分自身で話し合うことが求められている。



18時。ジュピターズの宿泊先のホテルで夕食が始まった。食事はバイキング形式で、体が資本の選手たちのために栄養価が高い料理が大量に並んでいる。彼女たちはアスリートである以上、しっかり食べて体を作ることが最も基本的な業務である。


「肉食べたいですう、今日はめちゃくちゃお腹すきました、試合って頭も使うんでお腹すいちゃいますよね、ねえ梢?」


そう言って鶏の照り焼きをたくさん取っているのは呉竹雫。強打の一塁手として大学時代に活躍し、2019年に梢とともに燕尾学院大学からドラフト3位で入団。2019シーズンの後半からレギュラーに定着し、35試合の出場で打率.303、本塁打2本、19打点を記録し、ルーキーながらチームの中心選手の一人となった。小学校の時から梢とチームメイトで、梢がチームで唯一といってもいいほど心を許している人物である。梢の人間性をチームで最もよく知っており、昨シーズン中も、試合中に彼女が不安そうなしぐさをすると真っ先にマウンドまで歩み寄り声をかけていた。キャンプの食事も梢と雫は常に一緒だ。


「しーちゃん、あんた食べすぎじゃない?そんなんじゃ開幕の頃には真ん丸になっちゃうよ」


普段は寡黙な梢が、雫のあまりの食べっぷりに驚きながら言った。


「いいの!私は今年はホームランクイーンになるんだから。それにこういうところでSNSに載せてもらって目立たないと、ファンに覚えてもらえないんだから」





20時。全員の食事が終わり、ホテルの会議室に選手25人が集まった。


「はい、お疲れ様です!今日の試合について、みんなで意見を交換したいと思います。今までキャンプでやってきたことも含めて、今日できていたかどうかとか、他にもいろいろ思うところがあると思うので、バンバン言っちゃってください!」


美紀が中心となって、ミーティングを進めていく。このチームは野球の実力はあるのだが、自分から進んで発言をしようとすることが極端に少なく、昨年はいわば監督の言いなりになっているような状態だった。技術はあるだけに昨年はすんなり優勝してしまったが、このままでは来季以降勝てるチームになれるかは分からない。主体的に考えて野球をやっている選手がほとんどいないのだ。


「相手チームの配球なんですけど、去年の私たちの弱点をしっかりついてきているなと思いました。キャッチャーは控えでしたけど、私が内角が苦手だってことを知ってて、今日は全部インサイドに投げられました」


一番最初に口を開いたのは奈緒だった。苦手なコースに投げ続けられたことが相当印象に残り、相手チームのことを徹底的にリサーチして試合に挑むことが大切だと肌で感じたようだ。


「確かに…私も去年あまり打てなかった球を投げられまくった気がする。外角低めばっかりだった」


智子も自分が捕手だというだけあって、そのことには気付いていたらしい。


「本来なら自分たちでその部分に気付かなきゃいけなかったのよね。というか去年勝てるからっといってそれを自分たちがしてこなかったことにも問題があるんじゃない?」


チーム最年長の純菜が語気を強めて語った。昨年、監督以外でチームに苦言を呈し、反省を促していたのは純菜だけだった。


その後も様々な意見が飛び交い、議論は白熱する。しばらくすると、試合中の雰囲気にが議題になった。


「ベンチの雰囲気は去年に比べてよかったと思います。去年は必死…いや、必死というか、なんか笑っちゃいけない雰囲気ありましたよね」


そう言ったのは、麗だった。昨年ベンチからチームメイトのプレーを見続けてきて、笑顔のなさには気付いていたようだ。


「今日はみんなものすごく声が出てたし、笑顔もたくさんでした。何というか…みんなめちゃくちゃ可愛かったんです。こんな顔で野球ができるんだってことに感動してました」


「特に柑奈さんのホームランの時はめちゃくちゃ盛り上がりましたよね!そんで柑奈さんの笑顔…もうご馳走様っていう感じでした。もうたまらんかったです。あんなん反則やわ…好きになったらどうしてくれるんですか」


17歳の未央奈が、28歳のお姉さんの無邪気な笑顔に完全に心を奪われてしまったらしい。柑奈が恥ずかしそうに笑う姿に、チームメイト全員の視線が釘付けになった。


「柑奈、それなのよ…その照れ笑いが可愛すぎるのよ…もおおおおお」


美紀が柑奈の頬を引っ張り、170cmの大きな体に抱き着く。ミーティング中とは思えない、和やかな雰囲気だ。


「去年まではあんな雰囲気になることって全くなかったのよ。ホームランが出ても淡々とハイタッチするだけで。それで今も美紀と柑奈があんな感じでしょ。その部分は明らかに変わってきてるよね」


純菜が目を細めながら、ジュピターズの変化を嬉しそうに感じていた。

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