キャストゲーム

いちとご

プロローグ

「ゲームは好きですか?」


 田中祐樹の住む築20年のマンションの少し古びれた画質の良くないインターホンのモニターからでも品が漂うスリーピーススーツを着た男が映っていた。

「な、何ですか?」

 宗教の勧誘か、それともさっきのイタズラ電話の男かと、祐樹は不審に思ったが、男はにっこり笑いながら告げた

「先程お電話致しました美山守です、お手伝いに参りました」

祐樹には6歳下の今年から高校生になった弟の大樹がいた。2年前に両親を居眠り運転のトラックと正面衝突事故亡くしてからは弟と二人で暮していた。祖父母も両親が成人する前に他界して彼にとって、たった一人の家族である。両親が残した4LDK駐車時庭付きがローンが後十八年残っているが、祐樹が働いて返す算段だ。両親が残した貯金は全て相続税に回し一円も残っていない。この時ばかりは叔父が助けてくれた。

祐樹は家庭教師とホストクラブを掛け持ちし働きながら小さい時からの夢である教師になる為に大学に通っていた。家庭教師は楽しいが身長も体格も顔付きさえも普通な祐樹がホストとして働くには如何に笑いや話術を鍛えてお客の心理を読み楽しませる技術が必要だ、お酒とストレスで身体が辛く心が挫けそうな時には大学入学式の日に父親と交わした約束を思いだしていた。

「祐樹なら何があっても立派な教師になるって、父さんは信じているよ」

「なら教師になった初任給で居酒屋奢ってやるよ」

「お!それは楽しみだな」

「楽しみにしとけよ」

 この会話をした一年後に両親が他界した。。 

 そして、大樹を一流の大学に進学させ立派な大人にしてみせると誓った。しかし、大樹は高校入学をしてから直ぐにイジメを受けていて入学から2ヶ月後イジメを受けていている最中に事故で他界した。警察は遊んでいる最中の事故だと片付け、学校に何度訴えてもイジメを認めてはくれなかった。イジメをしていた生徒達は何も罪には問われず今も自由に生きている。

 そう、まるで大樹が初めからいなかったかのように…

 死んでから一ヶ月しか経っていないのに…

「憎い…、絶対に殺してやる…、復習してやる…」

 大樹の遺影を胸に抱きしめ泣きながら呪詛を唱える様に繰り返し呟いていると荒れ果てた部屋に電話が鳴り響いた。

「ガチャ、田中です、ただいま留守にしております。伝言をどうぞ、ピー」

 それは、少し低いがとても優しい声で穏やかな話し方をする男の声だった

「初めまして、私美山守と申します。この度田中祐樹様の復讐のお手伝いを致したくお電話を差し上げました。十五分後にお伺い致しますので、お話出来たら幸いです、では、後程。」

 祐樹はしばらく放心状態になった「ふくしゅう…てつだい…」その言葉にはっ!っと、すると、ソファから飛び上がり転びそうになりながらも電話に向い留守番電話のメッセージを再生した。 

 何度聞いても聞き間違いではない。

〈何なんだ復習の手伝いって、イタズラか!宗教の勧誘か!〉

 何がなんだか分からないが、ただ、もし、本当に大樹の復讐出来るなら、奴らを殺せるならと思いを巡らせているとインターホンがなった。


そして、美山守は祐樹と同じ様に福山真の家にも訪れた、彼もまた、一人息子をイジメで亡くしたのだった。

 中学二年生で十四歳の秋人は中学一年の三学期にその時ターゲットだった同級生をかばい、次の日から新たなターゲットにされてしまった。

 結婚六年目にして初めて子供を授かった。真が三十四歳、妻の裕子が三十歳の時に産まれたのが秋人だ、二人は彼に全ての愛情を注ぎ大事に育てた。過保護過ぎて(ウザいな)と内心思ってはいたが秋人もそんな両親を愛していた。だから、絶対にイジメられている事を気付かれたくはなかった。

 しかし、授業中に教室から飛び降り自殺した…

 最愛の息子の突然の死と、ニュースに取り沙汰され毎日何十回何百回と鳴らされ続けるインターホンの音に裕子の精神は壊れてしまった、精神病棟に入院してから三年が過ぎ落ち着いてきたと思われてたが、先月病院から抜け出してしまった。

 連絡を受け会社を早退し、まずは家にいるか確認しよう、そう思い家に戻り真が見たのは、秋人の部屋で秋人の写真を床に敷き詰めて首を吊っている裕子の姿だった。

 

 真も祐樹も家族を自殺に追いやった、学校、生徒、マスコミ、全てを憎しみ恨み復讐する事ばかり考えていた。

 

 そんな二人に美山守はこう言った…

「私達の機関の研究に貴方の復讐が必要なのです。どうか、復讐を遂げる協力をさせてもらえませんか」

 

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