38度の生暖かさが優しく体を包み込む
「てか、翔太郎くさいよ~?」
「当たり前だ。堕落した生活を送っている君とは違って、部活動に勤しんでまいりましたので」
「それはそうと、汗臭いのはモテないゾ!」
「ご忠告どうも。いいか、俺は風呂に入るが、絶対に部屋のモノいじるんじゃないぞ。分かったな」
「ほーい」
俺の部屋に何があるってわけでもないが、JKに部屋をいじられるのは思春期男子としてどうも恥ずかしいというものである。
体を温かいベールが包み込む。38度の生暖かさが妙に心地が良い。
『ねぇ……翔太郎…………やさしく……してね?』
「?!」
目が覚める。俺を包み込んでいたぬくもりは先ほどから気持ちだけ冷めている。
今日の練習ではいつもに増して気合を入れすぎた。玄関をくぐった時の疲労から転じて睡魔が襲ってきていたようだ。明るい湯船の中でただ一人。気味の悪い夢を伴って眠りに落ちていたようだ。
「ううん~~」
長い事眠ってしまっていたのだろうか。首と腰がいたい。
そんな体に鞭をうって、軽くシャワーで流し、風呂場を後にする。
のぼせて、体にうまく力が入らず、頭もボーッとしている。家は相変わらず静かだ。階段を一段ずつ慎重に上り、足を半ば引きずるような形で廊下を進む。コンタクトを外したせいで視界は良好とはいえない。遺伝もあって、俺はそこそこ目が悪い。
お掃除ロボットがしっかりと仕事をこなせるように、箱一つすら置いていない廊下になにやら大きな物体が横たわっている。視力の悪さと、月明かりだけで照らされているという暗い状況のせいで、はっきりとは見えない。
まだ、思考回路が断線中の脳を無理やり動かしてその物体へ近づき、触れてみる。
「ん~……あったかい……?!」
パズルのピースがはまるように、思考回路が繋がり、脳が働き始めた。
「な~にやってるんだ。お前……って!なんで裸なんだよ!」
「たすけてください……お腹がすいて力がでません…………」
そこにいたのは、なぜか真っ裸の我儘姫だった。
「わかったから、とりあえず服を着ろ!なんて破廉恥な……」
長年コイツとは一緒にいるが、いまだに何を考えているのか分からない
「ほい。有り合わせのものしかできないが、これで我慢しろ。大体、君が来る予定なんてなかったわけなんだからな、食べれるだけ感謝しろよ?」
当然聞いてるわけもなく、餌を見つけた鼠のように勢いよくがっついている。
服を着ろという指示もまともに聞くわけでもなく、かといって俺が着させるのも色々問題がありそうなので、取り敢えずリビングまで引きずってきた次第である。
流石に真っ裸というのは倫理的にも、俺の精神的にも不味いので部屋に散乱していた服のなかから下着だけを持ってきて強制的につけさせた。
「さて、空腹を満たしたところで、話を聞こうか」
「ちょっとムリ。まだお腹すいてるから。食べ終わったらね」
「あー、そうですか」
って、ちょっと、それ俺の夕飯……あぁ……
あろうことか、まろうどの分際で主が提供した食事だけでは飽き足りず、主の分まで食い尽くすとは……昔なら物の怪に取りつかれた扱いされて、清められるぞ?
「で、もう一度お聞きしますが、いったいどういう状況であんなことに?」
「(……モグモグ……)ん?」
「頼むから最低限の量は残しておいてね?」
「(コク)」
はぁ……どうせ全部この下着少女に食べられるよ。諦めて、別のモノ作るか……
みるみるうちにお皿は綺麗になっていき、やがて全てのお皿が綺麗になった。
「さぞ、お腹は満たされたことでしょうね?で……君は一体あんな格好で何をしようとしていたんですかねぇ。さぁ、お聞かせ願おうか?」
「ごちそうさまです。中々美味であった」
「それは、お粗末様です。で、話の骨を折るな」
「いやぁ、それは翔太郎が全然お風呂から上がってこないのが悪いんだよ?」
「どうして、そこで俺の責任になる?」
「私だってお腹すくんだからね?」
「いや、なんだよ、そのアイドルだってトイレいくんですからね。みたいなの」
「とにかく、お腹がすいて死にそうだったんだからね」
「確かに、長風呂した俺にも非があったかもしれない。でも、どうしてそれが真っ裸になることになるんだ?」
「え?あまりに長いから、お風呂に凸ろうかなぁって。部屋は漁っちゃダメって言われたけど、お風呂には来るなとは言われてないでしょ?」
「なぁ……やっぱり、秋穂は頭のネジ外れてるんじゃないか?」
病気を疑うレベルで頭がおかしい。一度でいいから、その頭をパイナップルのように輪切りにしてじっくり観察してみたい。もしかしたら本当に妖精さんが住み着いているのかもしれない……
こんな姉を持って
「頭のネジは外れてないよ?いたって正常な美少女秋穂ちゃんは健在なのです!」
「はいはい、そうですか……アハハ」
苦笑しかできない俺をどうか許してください。
「さぁ、飯もくったことだ。寝るぞ」
「もう寝ちゃうの?あれあれ?熱い夜はどうしたの?秋穂ちゃんは現在送料無料でございますがいいんですか?」
「うるせぇ。黙って寝ろ」
「今なら、なんとお試し可能!どうですか!」
「お前……そんなに俺に襲われたいのか?」
「そんな訳じゃないよ!ただ暇なだけで……」
「黙って寝ろ、このビッチ。俺は疲れてるの。それにお前を襲う程飢えてねぇよ」
未だ下着姿の少女は不機嫌そうに布団へと潜った。
いつもこのペースに狂わせられる。本当にこんな奴に男がホイホイ来るとは……日本の男も堕ちるところまで堕ちたモノだ。顔だけみると美少女寄りなのは認めるが、どうしてこう日本人男性は面食いが多いのだろうか。え?俺?ハハ、ご冗談を秋穂みたいな外と中が一致しなさすぎる生命体を観てるので嫌でも面食いにはなれませんよ。
月明かりを片目に、ゆっくりと意識が堕ちて行く。
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