【勇者サイドⅠ】 盗賊の受難

 勇者ジーク、魔術師エリー、盗賊スネールの三人は魔術都市アドリアを出ると次の街に向かった。


「ジーク様、なぜアドリアで新しいパーティーを募集しなかったんですか?」


 三人分の荷物とパーティーの食糧などを持たされているスネールが言った。ミアが去ったからといって彼らの意識が変わる訳もなく、パーティーカーストが一番低いジークにミアの負担が移っただけだった。


「馬鹿なの? あの時の冷えた空気忘れた? あれを見たあの街の人がこのパーティーに入る訳ないでしょ」


 エリーはスネールに言ったが、それがジークの癇に障ったのだろう、彼はエリーをぎろりと睨みつける。


「お前、もしかして俺のやったことに文句があるのか?」

「全然ないわ、単にあいつらが低能って言いたかったのよ」


 エリーは慌てて言い繕うが、ジークは気に食わなかった。こいつらもジークが強いから媚びへつらっているだけで、ミアのように内心では自分を嫌っているのではないか、そんな気がした。




 空気は最悪の旅だったが、二日後一行は次の街に着いた。大きな街ではなかったが、近くに魔物が出る湖があるとのことで、冒険者はまあまあ滞在していた。


「ではジーク様、早速パーティーを募集しましょう」


 いい加減荷物持ちにうんざりしていたスネールは待ち焦がれていたように言う。


「言われなくてもする」


 一行は街のギルドに向かった。しかし三人が建物に入った瞬間、ギルド内は微妙な空気になる。そして心なしか、皆が視線をそらしている。


「おい、パーティーの募集をしたいんだが」


 ジークが受付嬢に声をかけると、彼女はなぜか魔物にでも会ったかのように体を震わせる。


「ど、どのような方を募集ですか?」

「とりあえず回復魔法が使える奴が一人。もう一人、Aランク以上の奴なら入れてやってもいい。いや、Bでも見所がある奴ならいい」


 無能な奴が一人抜けてもいいように、ジークとしてはパーティーは五人ぐらいにしておきたかった。


「わ、分かりました」




 手続きを終えた三人は湖に出るという、Aランクの魔物を討伐しにいった。しかし聞いていた話と違い、出たのはBランクの魚の魔物レイクフィッシュだった。

 本来は瞬殺するはずだったが、本来身軽さが売りの盗賊であるスネールが荷物を持たされているために、スネールが魚の口から吐かれる水鉄砲に次々と被弾する。そして防御力が低い彼はすぐに倒れた。


「ちょっと、いちいち当たらないでよ! 私は攻撃魔法使いたいんだけど」


 エリーがぶちキレながらスネールに回復魔法をかける。


「おいエリー、早くあれの動きを止めろ」


 先ほどからジークは勇者の能力で空を飛びながらレイクフィッシュに斬りつけるが、そのたびにレイクフィッシュは水の下に潜るので全然攻撃が当たらない。


「でもスネールが……」

「そんな奴放っておけ! 誰のせいでBランクなんかに苦戦してると思ってるんだ!」

「ごめ~んスネール、ジークが放っておけ、ていう命令出したから本当は助けたいけど放っておくね~」

「……」

「パラライズ!」


 エリーはレイクフィッシュを麻痺させると、ジークは剣を一閃させて体を両断する。勝利したものの、ジークの表情は渋かった。

 そして水鉄砲を受けて無様に倒れているスネールの元へ歩いていく。


「おいスネール、お前のせいで俺がBランク何かに苦戦したんだ」

「す、すいません、すいません!」


 スネールは荷物持ちにさせられたことに不満を持ちつつも、必死に土下座する。


「この無能が。お前ももうパーティーにいらない」

「ちょっと待って」


 スネールが抗議するよりも先に止めに入ったのはエリーだった。スネールがいなくなれば彼女が荷物持ちにされるし、勇者の八つ当たりも受けなければならなくなる。スネールには何の感情もないが、それだけは御免だった。


「だが今の戦闘でもこいつは足を引っ張るばかりだっただろ」

「じゃあ、こいつは荷物持ちにしよう? 当然報酬は当分じゃなくて荷物持ちにふさわしい分だけ」

「確かに、それは名案だな」


 時折ジークがひどいことをすると抗議したミアと違って、スネールは表向きジークには従順だったのでジークは受け入れることにした。


「よし、今日からお前は荷物持ちだ」

「ゆ、許していただきありがとうございます」

「あーあ、早く新しい人来ないかなー」


 こうして、最悪な雰囲気で三人は街に戻ったのだった。




 一行は湖が離れて居たたため、一泊して街に戻った。当然野営の支度などは全てスネールがして、その間にジークとエリーは抱き合っていた。さらに帰り道の雑魚魔物との戦闘ではスネールは戦場から外された。戦場から外されれば、さすがに経験値はもらえない。


 とはいえそれでもスネールは我慢を続けた。新しく入った者を荷物持ちにしてやろうと思ったからだ。

 ギルドに戻った勇者は真っ先に受付で尋ねた。


「加入希望者は何人いた?」

「……ゼロです」

「は?」

「ですから、ゼロです」

「ふざけるな!」


 思わずジークは受付のテーブルを叩く。冒険者たちでにぎわっていたギルドがしん、と静まる。


「何故だ? 俺たちは国の依頼で仕事をしているから報酬もいいし、経験値も俺が倒した魔物分を山分けだぞ」

「そう言われましても……」


 受付嬢は俯く。ジークは一つ舌打ちすると周りを見回す。そして聖女と騎士の二人組を見つける。見たところレベルも悪くない。


「おいそこの二人、二人一緒でいいからパーティーに入らないか?」


 が、ジークが声をかけると聖女は脅え、騎士は彼女を守るように立つ。これまでジークの誘いを断る者などいなかったので考えられないことだ。むしろこっちから何もせずとも山のように応募があったものである。


「わ、悪いが先約があるんだ」

「そっちには俺が言っておいてやるよ。経験値は稼げるし、報酬も一番いいと思うが」

「いや……」


 それでも騎士の歯切れは悪い。こんな消極的な奴はいらない、と次は別の三人組に声をかける。が、彼らも婉曲に誘いを断った。


「くそ! 一泊したらすぐに次の街に行くぞ!」

 むしゃくしゃしたジークはエリーとともに酒場に繰り出すのだった。




 その夜、スネールは一人決意する。金も経験値ももらえない上に雑用を押し付けられる勇者パーティーには何の用もない、と。




 翌日。目覚めたジークは異変に気付いた。いつも真っ先に起きてジークの機嫌をとりにくるスネールがいないのだ。


「スネール? お前俺より寝坊とかたるんでるぞ」


 そう言ってスネールの部屋に向かい、ドアノブに手を掛けるとなぜか鍵が開いていた。ジークは嫌な予感を覚えつつ、ドアを開ける。


 すると、中はも抜けの空だった。残っているのはスネールに持たせていた荷物だけだった。しかも、荷物の中にあった高価な素材や金貨袋は全て持ち去られていた。


「スネールを探せ!」


 激昂した勇者はすぐにエリーを叩き起こしてスネール探しを始めたが、隠密と索敵においてのみは勇者をも凌駕するスネールを見つけ出すことは出来なかった。

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