白魔術師の幼馴染が勇者パーティーから追放されたので私がもらう
今川幸乃
白魔術師ミア
「どうしても行っちゃうの?」
「はい、私は勇者様を助けて世界中で魔物に苦しむ人々を救いたいのです」
一年前、一緒に魔術学校を卒業した一つ年下の幼馴染のミアは覚悟を決めた表情でそう言った。心優しい性格のミアが、勇者パーティーに入って世界中の魔物を倒して回ることが夢だったのは知っていた。
私はミアと離れたくなかったけどミアの決意を邪魔することは出来なかった。いっそ私も勇者パーティーに応募しようと思ったが、私の職業である錬金術師の募集はなかった。錬金術師はあまり戦闘向きではないからだ。
「分かった。そこまで言うならもう止めない。頑張ってね」
「はい、エルナもお元気で」
その後私は一人で冒険者をしていた。錬金術師は工房を開いたり学園で教授をしたりする者も多かったが、私はいつか勇者より強くなってミアと一緒に冒険するという夢があったのでひたすら冒険をしてレベルを上げていた。
勇者パーティーの活躍はそんな中でも時折耳に入って来て、最初は喜んでいた私だったが、次第に良くない噂も聞くようになってきた。
曰く、勇者は旅先でパーティーメンバーに野営や食事の準備をさせて一人で休んでいる。
曰く、安全そうなところではパーティーの女性メンバーの体をさわる。
曰く、この前メンバーが一人やめたのは実は勇者の横暴に耐えかねたかららしい。
噂を聞いて私の心配は募るばかりだった。
そんなある日、私の滞在する街にたまたま勇者パーティーがやってくるという知らせが入った。久しぶりにミアに会える、と私はうきうきしながら家で料理を作っていた。
夕方ごろ、後は鍋に入れて煮るだけになったスープをひとまず置いて家を出る。そして冒険者ギルドに向かった。一応勇者たちも身分的には冒険者ではある以上、ここには立ち寄るはず。
そう思ってギルドに向かうと、その前には目を真っ赤にしてぽつんと佇むミアの姿があった。高級な素材で出来た白魔術師のローブも、心なしか薄汚れて見える。私は思わず駆け寄る。そして数々の勇者に関する黒い噂が頭をよぎる。
「大丈夫、ミア!?」
「エルナ……すみません、私、せっかく勇者パーティーに入れたのに追放されてしまいました」
そう言ってミアは目から一筋の涙をこぼす。それを見て思わず私は彼女を抱きしめてしまう。ずっと会えなかった寂しさ。あまり弱みを見せない彼女がここまで落ち込んでいるなんて。
「もう大丈夫。だからとりあえず私の家に行こう」
うん、と言うようにミアは無言で頷く。そして私に続いてとぼとぼと歩き始める。それを見て私は深い後悔に包まれる。ミアが選んだことだからと彼女を送り出したが、悪い噂を聞いた時点で無理やりにでもついていって彼女の様子を見るべきだったのではないか。
家に着くと、とりあえず私はミアを自室に連れてベッドに座らせる。この部屋に来るのも一年ぶりだったが、かつてはよく来ていたところに来たからか、少し安心したようだった。
「どう、少しは落ち着いた?」
「は、はい……ありがとう、エルナ」
「全然。むしろもっと早く気づけなくてごめん。それで、何があったの?」
「実は……」
勇者パーティーは元々勇者ジークに魔術師エリー・盗賊スネール・女剣士オリザにミアを加えた五人だった。最初はミアが入ったばかりだったこともあり、勇者もそこまで横暴ではなかった。
だが、次第に雑用は全部他のメンバーに任せ、言うことを聞かなければ怒り出した。また、旅先で敵がいなさそうなタイミングがあるとエリー・オリザ・リアの三人の体を触ろうとした。
スネールは勇者の腰巾着で全く止めないし、エリーは勇者のことが好きなのか、セクハラを受け入れている雰囲気さえあった。だからいつもミアをかばってくれたのがオリザだった。
が、一か月ほど前に些細なことで言い争いになったオリザに、勇者は激怒した。そして酔った勢いで剣を抜き、どうにかその攻撃を避けたオリザはそのまま逃亡してパーティーを脱退したという。
それから、勇者の標的はもっぱらミアに集中するようになり、パーティーの雑用や情報収集の聞き込み、荷物持ちなどは全てミアに押し付けられた。それでもミアは魔物退治のためと割り切って、しばらくはそれに耐え続けた。
そして今日。レベルアップしたミアはついに初めての固有スキルを授かることになった。スキルはある程度修練を誰でも手に入るが、固有スキルはその名の通り、その人固有のスキルで、よほどの猛者にならないと手に入らない。そこで手に入れたのが『詠唱短縮』という自分か仲間の魔法詠唱を短縮するスキルであった。それを聞いたメンバーは一様に微妙な顔をする。
「エリー、詠唱短縮って何かに使えるか?」
「別に? すでに攻撃魔法は秒で使えるし、これ以上短縮出来ても意識が追いつかないし」
エリーは興味無さそうに言った。
「うわあ、本当にいらないスキルですねえ」
スネールがジークの機嫌をとろうと露骨に追従する。ジークも魔法は使わないし、スネールも戦闘外でたまに探査魔法を使うぐらいだ。気まずい沈黙が流れ、ジークは少し考えた末に言った。
「一度固有スキルをとったら次の固有スキルをとれるまで大量の経験値が必要になるからな。もっと有能な固有スキル持ちか、まだ固有スキル持ってない奴を入れよう」
「え、では私は……」
「もういらない。そうだ、大体お前いつも俺が命令すると反抗的な目でこっち見てたよな。前から気に入らないと思っていたんだよ。どうせオリザと同じように心の中では俺のこと憎んでいるんだろ?」
「そ、そんなことは……私、今まで言われたこと何でもやってきたのに」
そう言ってミアは勇者を見つめ返す。
が、それを見てジークは激昂する。
「今もそう言って口答えしてるじゃねえか!」
「すいません、すいません!」
ミアは慌てて謝るが、ジークの怒りは収まらない。
「今までは強い固有スキルとれるかもと思って雑用に使ってやってたが、もう用はない、行くぞ!」
そう言ってジークはさっさと歩き出す。
「へへ、そういう訳です。あ、それとも僕の夜の従者になりますか? そういうことでしたらジークに頼んであげますよ」
スネールが下卑た笑みを浮かべ、エリーも、
「まあ回復魔法は私も使えるし、安心して追放されていいよ」
とあっけらかんと言い放つ。そしてジークたちは新たな回復役を探しにギルドに入っていった。
ちなみに国は勇者パーティーがいなければ強力な魔物を倒せる者がいなくなるので出来るだけそのことが漏れないようにしていたが、人の口に戸は立てられず、少しずつ噂は広がっていったらしい。
「……という訳なんです」
「そっか。辛かったね。でももう大丈夫だよ」
私は辛そうに語るミアの体を優しく抱きしめる。
「これからは私がずっと傍にいるから」
「本当にですか?」
リアが潤んだ目で私を見上げる。
「もちろん。そうだ、ご飯作ってたから持ってくるね」
そして私は今日のために買っておいた柔らかいパンと、さっきまで煮込んでいたスープとローストビーフを持っていく。
リアはパーティーで食事するときもいいものを食べさせてもらえていなかったらしく、すごい勢いで食べていた。私は自分の料理をおいしそうに食べてくれるのが嬉しくて、眺めていたら不意にミアは顔を赤くする。
「す、すみませんおいしくてつい……はしたないですよね」
「い、いや全然! むしろまだまだあるからもっと食べてよ!」
私はそんな無邪気なミアの顔を見ながら今度こそ彼女を幸せにする、そして例え国が勇者を保護しようと私は許さない、と。
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