心 KIDS

石田1967

心 KIDS

「へいわって何?」

 おかあさんに聞いてみた。

「すごく気持ちのいいものなのよ」



「へいわって何?」

 おとうさんに聞いてみた。

「優しくなれる事だよ」



 答えは簡単。

 でも、なんか苦しい。

 今日も学校で男子が言った。


「いい恰好すんな!」


 そんなつもりはなかったんだ。

 ただ、

 道端にスズメが落ちていて、

 可哀想だったからお墓を作ったんだ。

 最初に触った時、驚くほど冷たくて止めようかと思ったけど、何か自分の番のような気がして………

 そして、

 そんな僕の言葉がその男子には面白くないらしく、


「そしたら今度犬の死体持ってきてやるヨ」


 そう言って笑った。

 厭な笑い顔。

 つられて笑う横の男子。

 苦しくなる。

 何で?

 何でそんな事を言うんだろう?


「へいわ、がいいのに」


 悲しい僕の呟きに男子の動きが止まる。


「へいわ………」




 ほんの一週間前、

 世界中の空に溢れかえった「へいわ」という文字。

 〔空ペンシル〕という宙に描けるペンで綴られた愛の言葉。

 何も分からないが、その『へいわ』という言葉に集約された優しい思い。

 それらが世界中に咲き乱れ、僕達の心に優しくなれる印を残したんだ。

 だから………




「へいわ……………」


 その心温まるニュースは一瞬の内に世界を駆け巡ったが、それよりも早く僕達を変えた。


 悲しいだけは厭だ。

 辛いだけは厭だ。

 苦しくなるもの厭だ。

 僕達には「へいわ」になれる権利がある。

 僕達には「へいわ」になれる義務があるのだ。

 そう、

 僕達は幸せになる為に生まれた。

 ならば「へいわ」はそれを生み出す力と太陽だ。


「……ごめん…………」


 その男子が言って頭を下げ向こうへ走っていった。

 僕はその子を追いかけた。

 その子に「ごめん」と言われた瞬間に胸で生まれた言葉を伝えにだ。




「ありがとう」






                END

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