迎え

 親の心子知らずとは、よく言ったものだ。

 始まりは十九時で、もう四時間が経つ。三十になった息子が帰ってから寝ようと思ったのだが、一向に連絡がない。急に迎えが必要になったときのことを考えて、お酒を飲むのは我慢したというのに。


真矢まや、遅いわねぇ」

「高校の同窓会だろ? 久々に会うんだから、酔った勢いで二次会にでも行ったんじゃないのか。明日は休みなんだし、日付が変わるころに帰るのは大目に見てあげたらどうだ?」

「終電で寝過ごしたと思って、柳井から徳山まで歩いて帰ったのはどなた? 帰宅の報告が一向に来なくて、夜勤中の妻を心配させた人は」


 自分ですと、パパはうなだれた。息子も同じような道を辿るのかしら。くよくよ考えるのが馬鹿らしくなる。


「もう真矢も大人なんだから、心配するのはやめるわ。終電を逃したとしても、タクシーを使うなりして帰るわよね」


 私は寝ますと宣言して、寝室へ上がった。明日も仕事がある。体調を整えておかないと。


 一時になっても二時になっても、真矢からの連絡はなかった。電話をかけても繋がらない。


「パパ、真矢は誘拐されたんじゃないかしら。連絡がつかないの」


 不安になって、隣で寝ていたパパを揺らす。


「ママ。まだ起きていたのか? 大丈夫、大丈夫。電源を切っているだけだよ。プライバシーを守りたいときはある」

「真矢は電源なんて切らないわ。マナーモード派なの」

「心配するのやめるんじゃなかったのか?」


 パパの手が私の頬を拭う。いつの間に泣いてしまっていたんだろう。


「無理よ。いくつになっても大事な息子なんだから」

「俺も心配してない訳じゃないからな。こんなにママを心配させた真矢には、ガツンと言ってやりたいと思っている。無事に帰ってきたら」

「そうね。早く帰ってほしいわ」


 私の握っていたスマホから着信音が鳴る。


「真矢!」


 パパと一緒に画面を見た私は、笑いが止まらなくなった。


「もう! いつ迎えがいるのか待っている方はつらいのよ。まさか充電が切れちゃって、連絡できなかったなんてね。寝過ごして小倉まで行っちゃうなんて馬鹿。せめて新山口で起きなさいよ」

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