空蝉
六時十分に家を出る。
目的地までは五分とかからない。ぎりぎりまでリビングのクッションにもたれかかっていたかったけど、最上級生として示しがつかないのは癪だ。
中学校のグラウンドには、すでに十人ぐらいの人が集まっていた。子どもと一緒に来た親や、おじいちゃんおばあちゃんもいる。
木陰にいた一人のおばあちゃんが、僕に話しかける。
「あら。佐藤さんとこの。おばあちゃんは元気? 最近見かけないけど」
「祖母は去年の秋に亡くなりました」
「亡くなっとったん。いつも一緒にラジオ体操に来とったのに」
寂しいねえと残念がる顔に、適当な相槌を打った。
僕のおばあちゃんと婦人会で絶交しておいて、いい人ぶらないでほしい。
おばあちゃんに背を向け、退屈しのぎに木を眺める。葉っぱにくっついている蝉の抜け殻は、朝日を受けて琥珀色に透き通っていた。
空蝉という別名があることも、夏の季語だということも、おばあちゃんに教えてもらった。天才俳人の血は、ぼくには受け継がれていないかもしれないけど。
おばあちゃんとの七年間に渡る絶交が忘れられている悲しさを、俳句に詠んでみたくなった。
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