アイシャドウ
「こんしの~! しののんだよ! 今回は新色のアイシャドウを取り上げるよ! みんなの気になってるカラーがあったらいいな」
画面に映っているのは、紫と白の髪色が特徴的な女性配信者だ。夏場でも黒いマスクをつけている。
私は再生時間のボタンをずらし、三分の二まで進めさせた。
「失敗しないアイシャドウのコツを伝授するね!」
私は動画を見ながら、人差し指でアイシャドウを撫でる。
大丈夫。うまくいく。つけすぎてしまっても、上手く馴染ませることはできるから。
ファンデーションやマスカラも、修正のしようはあった。初めてのアイシャドウも怖くない。そう言い聞かせて、動画の動きを真似したつもりだった。
どう足掻いても歌舞伎の隈取りにしか見えず、衝動買いした後悔がのしかかって来る。パレットはステンドグラスのように色とりどりで、憂鬱とは縁遠いはずなのに。
「しののんは完璧に使いこなせてたから、私も頑張ればいけると思ったんだけど」
しののんは、初心者でも試しやすいメイク動画を上げてくれる。初めて聞く単語も分かりやすく解説するし、高校生のお財布に優しい道具しか使わない。派手なストロベリーピンクのアイシャドウも、自販機のジュースを我慢すれば買える値段だった。
「すぐに落とすのもったいないけど、こんな顔をお父さんに見られたらやだな。小遣いはそんなもんを買うためにあげてる訳じゃないんだぞって言われそう」
しののんが昨夜紹介したばかりのアイシャドウを、父がすごいねと言ってくれる未来は見えなかった。父が晩ご飯を作っている間に、洗面所へ行ってしまおう。
「
私より先に父がドアを開けた。悲惨なメイクを至近距離で見られ、顔が熱くなる。
「柚寿、それ……アイシャドウじゃないか」
「違う! 目をこすったら赤くなっただけ!」
「こすってもそんなに赤くはならないぞ」
雑な言い訳に父は納得してくれなかった。隠そうとした私の手を掴み、まくしたてた。
「まんべんなく塗らないから仕上がりがよくないんだよ。力加減も強すぎる。目の際は小指を使わないと」
「そんなこと、しののんは言ってない!」
「倍速で見たんじゃないのか? 俺はちゃんと解説してる!」
しののんの正体が、女装した五十代会社員?
情報量が多すぎて、理解が追いつかないよ。
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