信じないから!
Twitterで「無口無表情ドS×ツンデレ姉御肌が読みたい」という要望を見つけまして、ラブコメを描いてみました。お口に合えば幸いです。
***
今日から六月。昨日引いたくじの結果が、黒板に張り出されているはずだ。気になりすぎて、いつもより早い時間の電車に乗った。二回目の席替えこそ、
黒髪というより茶髪に見える薄い色素は、膝の上の猫のように撫でたくなる。否、撫で回したくなる。笑顔を見せないクールキャラの素を暴きたかった。
別に、イケメンをグズグズに溶かしたい性癖がある訳じゃない。委員長として心配なだけだ。授業で当たるとき以外は、郡山くんの声を聞いたことがない。みんなと盛り上がったクラスマッチも、集合写真に郡山くんだけ入っていなかった。郡山くんと去年同じクラスだった人はいないから、このクラスの居心地が悪い可能性は高い。変にお節介を焼くと郡山くんの機嫌を損ねそうだから、さり気なく声をかけたいと思っていた。近くの席でありますように。せめて、警戒されずに話せる範囲内がいいな。
「ぬくちゃん、席変わってえ~!」
靴箱で座り込んでいたのは結実。うっすら涙が滲んでいて、私はぎょっとした。
「結実、そんなに嫌な席だったの?」
「うん。郡山くんの後ろの席」
これはチャンスだ。プリントを回してくれたり、一緒のグループで作業したりできる。
「いいよ。交換しても。私なら大丈夫!」
サムズアップすると結実は笑顔になる。
「ありがと~! ぬくお母さん~!」
「誰がおかんよ。JKに対してひどくない?」
「だって、ぬくちゃん優しいんだもん。面倒見いいし」
それにしてもお母さん呼びはないよ。同性から好かれても、男子ウケはよくない。恋愛対象として見られたことは一度もなかった。何でも世話してくれる便利な奴。そんな見方をされているのは知っているけど、困っている人を見かけたら放っておけないんだよね。
「一緒に教室上がろ! きゃあっ」
結実が前を向くと学ランにぶつかった。叫び声まで可愛くできるのは反則だよ。私なら「ぬおおお」とか「ぐふうっ」ぐらいが妥当だ。おかんキャラを通り越しておっさんになってしまう。
「ぬくちゃん、うち怪我してない?」
「鼻血は出てないし、今日も可愛いよ。怪我がなくてよかったけど、次からは気をつけて歩こうね」
「はぁい。ぬくお母さん」
せめてお姉さんと呼んでくれたらいいのに。そんな愚痴を言いたいのをこらえて、結実がぶつかった相手に謝った。
「おはよ、郡山くん。結実がぶつかってごめんね」
嫌な気持ちがあるのなら、笑い合っていた私達を睨んだはずだ。怒っていないのなら、にこやかに接してくれるはずだった。なのに、無表情だとどちらの反応か分からない。
「……って、何もしゃべらないの? そんなことないよとか、前を見ていなかった僕も悪かったよとか、何か言おうよ!」
すたすたと教室へ行く郡山くんは、感じが悪い。私は郡山くんを追いかけていた。
「郡山くん、待ってよ!」
小走りになる私の上履きが、廊下に引っかかる。
「ぬぐふぉっ」
誰よ、こんな可愛くない声を出すのは。私か、私しかいないか。生まれ変わるなら少女漫画のヒロインになりたかったよ!
硬い床とキスする五秒前、誰かが私を抱きとめる。
「危なっかしいにも程がある」
「ごめんなさい」
見上げると、ふわふわとした茶色の髪が目の前にあった。
「よかった。鼻血は出てないな。人の心配をする暇があるなら、自分のことを最優先しとけ。
「あ、あんた誰よ!」
「クラスメイトの名前を忘れるなんて薄情だな。郡山だよ、郡山。人間関係は最低限でいいから、気を使う必要ねーよ。無口は省エネのためだから」
こんなに性格が悪かったの? 今までの私の心配を返してよ!
赤くなったり青くなったりする私に、郡山は背を向けて立ち去ろうとした。
「一個だけ言い忘れてた」
暴言ならいらないわよ。私が言い返すより先に、郡山の口は動いていた。
「今日も可愛いよ、温水。次からは、急いでいても廊下で走るんじゃねーぞ」
世界で一番縁がないと思っていた言葉に、私の頭の中は爆発した。
ほだされちゃだめよ、温水
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