アイラル
楠木黒猫きな粉
彗
夢が白かった。何事もないようにモノクロで何かあったかのように産み落ちた。
視界を彩った灰色はいつしか星空も奪い取る。一条の星が流れた深海で浮上する。
揺れる海面に心が凍る。実際は踊っていたのかもしれない。気泡のように薄っぺらい脳味噌が必死に意味を探し出す。
たった数瞬揺れた空に目を奪われる。数々の光が灯っているはずの空を見上げた。
見上げることは好きじゃない。けれども号砲のように脳が告げる。気泡が脳味噌で暴れて割れる。きっと求めた感動はそこにはないのだろう。揺れる空を見上げている。たった一瞬の光が消えて無くなっていく。最期を迎えるロケットを眺めている。
眼を閉じる。瞳を塞ぐ。心のような深海は食い違うように渦を巻いた。私を中心にして回転する渦に微笑みを返す。混濁した意識を泳いだ魚が何処かへ行ってしまった。
きっと最期を迎えた星空もロケットも変わりはない。今ここにある私も変わっていない。
数巡した空に光が走る。最期まで輝く光はこの海の底に落ち着くのだ。
トポンと音がした。それを大事そうに抱えた少年は星空に手を振った。
海底の底の底で私はいつもソレを見る。
輝く星を胸に抱いた少年は最期の星すらも抱き抱える。
空を見上げるのは好きじゃない。モノクロに輝く少年を見つめて分かる。けれど嫌いでもなかった。例えるならば空を渡る船が最期に落ちるようなものだ。星の最期の輝きと変わりはない。右も左もない海の底だ。だからこそ上も下もない。だからこそ空を見上げるのは好きじゃなかった。そこには居ないと思えてしまうから。
この海底はそういうところだ。最期にたどり着く場所でありどこにでもある空。
あの少年は一人で歩いていけるだろうか。そんなことは私の気にするところではない。気泡のような脳味噌がまた告げた。
モノクロの視界に光が落ちた。空が私を見ていた。海面に浮上する。溶けていた存在を発見する。未開の未来がそこにはあった。
私が私を発見したのはいつぶりだっただろう。晴天の星空が視覚を焼き尽くす。
溢れた星が落ちていく。
その全ては底に落ち着く。ハッキリとした感情が脳味噌を形作る。
いつか見たロケットを夢想して少しはマシになった脳味噌が笑った。
——おはよう、と
アイラル 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven
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