第4話 幽霊水路は濡れている その②
( ゚д゚)アレェ?
一瞬で頭がパーになってしまった。
慌てる僕。キョロキョロと周りを見渡すと人っ子一人いない。
観光客だのオカルトマニアなどはいつのまにかいなくなってしまっていた。
ますます慌てる僕。
汗と鼓動が流れ打ち、フルフルと体が震おうとせん、まさにその時、
「あの・・・すいませんでした」
柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳柳
川川川川川川川川川川川川川川川川川
柳柳柳柳柳柳 女性 柳柳柳柳柳柳柳
僕
柳の方を見るに、柳と柳の間に女性がいた。
どうやら観光客が川を眺めるため、また休憩として使用される長椅子に女性が座っているのである。
「すいません・・・とは?」
僕が尋ねると、彼女は細い腕をゆっくりと上げ、続けざまに僕の足元を指さした。
目線を足元へと動かす。・・・・・・空き缶だ。
炭酸ジュース『スぺライト』の空き缶が足元に転がっており、そして靴と地面が濡れている。
缶の中身の透明な液体が靴と地面を濡らしたのだろう。
「ごらんの通り」(彼女は自分の服を強調し)
「飲み物をこぼしてしまって」(着ている服がビチャビチャだと申し)
「慌てて手に持っていた缶を落としてしまったんです」(ドジっ子アピールをし)
「そしてあなたの前に中身の入った缶が・・・」(上目遣いで申し訳なさそうにしてきた)
ドキリッ!とした。
その一連の流れの可愛さ、そして彼女の見た目の美しさに一瞬で心を
そしてなにより大事なことは!!!
(服が濡れている!?)
スケスケだぁ~~~~!!と僕は心の中で叫んだ。
男心を掴むあんなモノやこんなモノがスケルトンなのである。
まじまじとは見ない、さりげなく、しかし、試験前夜で公式や英単語を覚えるよりも、ゲームの攻略法を覚えるよりも、それよりもさらに脳を酷使してその光景を目に、脳に焼き付けた。
その間、実に2秒!
そして僕は言う。全力で、人生最大の親にも見せたことのない笑顔で僕は言う。
「いえ、全然お気になさらず ( ゚ω^ )ゝ」
「でも・・・結構ガッツリと靴がビシャビシャですけ」
「いえ、全然お気になさらず ( ゚ω^ )ゝ」
「え?・・・いや、そうは言われても気になり」
「いえ、全然お気になさらず ( ゚ω^ )ゝ」
「・・・では、せめてハンカチで拭かせ」
「いえ、全然お気になさらず ( ゚ω^ )ゝ」
「あの・・・」
「いえ、全然お気になさらず ( ゚ω^ )ゝ」
「・・・よろしければ、お詫びに飲み物でも」
「ええ、是非ともご馳走になります ( ゚ω^ )ゝ」
「・・・・・・はい♡」
僕の素敵な返事と笑顔で彼女のハートをガッチリと掴むことに成功したようだ。
服は濡れ、靴は濡れ、地面は濡れ、互いの心が濡れている。
女性は立ち上がり、そして僕の横に並び立って共に歩き出した。
(素敵な女性だ)
正面も横顔も綺麗で、誰もが彼女を美しいと思うだろう。
そんな女性と知り合えた。
それだけで、幽霊水路を通るという嫌なことも乗り越えられた。
素晴らしき日である。
そして僕は、彼女の透けている服を隠すため、羽織っていた服を彼女の肩より掛けた。
その時、彼女の背中を見た。
雨の日・・・ではなく、晴れた日。快晴たる日。
決して暑い日ではなく、心地よい風が吹く日。
彼女の額に汗は無く、首にも腕にも汗はない。
スぺライト(飲み物)をこぼして彼女の服は濡れている。
彼女の服の真正面が濡れている。
そして、
彼女の背中も濡れている。
――――というのが、証言の多い取り憑き例の “濡れている” である。
今回の話では幽霊は『女性』であったが、『男性』の場合もある。
聞くにフェミニストたちが大激怒しそうな与太話であるが、『男性』の場合もスケスケボディより女性を口説いて取り憑くそうなので、大目に見てやるのが筋というモノだろう。
と、そういう話を電車の中でAと話していた。
電車の中で“アルティメットうなぎ”の話だけするのも、折角の小旅行もどきなのに味気ないと私が話を逸らしたのである。
有名話をするのは実に申し訳ないことだと思ったが、意外なことにAはこの話を知らなかった。
そのため、オカルト好きの私はノリノリでAにこの話をした。
ところがだ、
「所詮はフィクション、作り話、オチも弱いし、いまいちだ」
「その後、どうなったかの話はないの?」
「駄作。漫画だったら打ち切りだね」
私はもう二度とAにオカルト話をしないと心に誓った。
今現在、私の心も濡れている。
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