5 聖女と聖女

 そして私達にお礼を言った赤髪の少女は、私が応急処置をした場所に視線を向けて言う。


「うん、完璧。凄い綺麗に補強してある。中々の腕前だよ」


「でも使い手が変われば結界の性質も少し変わってくるから、今は良くても安定しない。早く結界を張っている本人が修復した方が良いと思うよ」


 と、私は促すように赤髪の少女に言う。

 多分、この人がこの国の聖女だろうから。

 だから駆け付けたのだろうから。

 だとすれば早い所修復作業に入って貰った方が良いと思う。


 だけど赤髪の少女は言う。


「なんか勘違いしてるようだけど、私じゃこの結界は修復できない。私も此処には応急処置をしに来たんだ」


「え、いや……その、聞いていいのか分からないですけど、此処に急いで来たって事はこの国の聖女さんじゃないんですか?」


 そう私が聞くと、一拍空けてから赤髪の少女はスーツの男に問いかける。


「ライアン。私これどこまで話して大丈夫?」


 どうやらそう簡単に聞いていい話じゃなかったみたいだ。

 だけどそんな確認を態々するってっ事は、やっぱりこの子が聖女なんじゃないかなって思う。


「ユイ……ちょっと来い」


「あ、ちょっと待ってて」


 そう言った赤髪の少女は、ライアンと呼ばれたスーツの男と共に少し私達から距離を離して、私達に聞こえないように何やら打ち合わせの様な事を始める。


「お嬢の問いにたいする反応がアレって事は、完全にもう答えですよね」


「うん、私もそう思うよ」


「完全に丸分かり何ですが……えーっと、あの二人、馬鹿なんですかね」


「……ちょっと失礼だよクロード」


 いやまあ確かに、もっと他にやり方あるんじゃないかなって思うけど。


 そして一通り打ち合わせが終わったみたいで、再び私達の元へと戻ってきて、そして言う。


「ごめんお待たせ。えーっと、とりあえずお二人共。時間ある?」


「だ、大丈夫です。だよね? クロード」


「ええ。とはいえ俺達は今日この国に入国してきたんで、早い所宿の方を探さなくてはいけませんし、それほど時間は取れませんが」


「ならお礼も兼ねて、宿の手配も私達がやってあげる。だから少しゆっくり話そうよ。此処じゃ言えない話もあるから場所を変えてね……さっきの質問は私達にとってそういう質問」


 と、半ば答えのような事を口にしてから赤髪の少女は言う。


「それなりに有益な話ができると思うよ。まあ突然現れた私達に着いてこいなんて言われても怪しさ満点だとおもうけどさ……どうだろ?」


「うん、私は良いと思うけど……クロードは?」


「確かに初対面の相手にいきなり付いていくリスクはありますが……まあ、この人達がそういう人間の可能性が薄いってのは大体分かりますから」


「お、てことは決まりだね」


「もし仮に何かあってもその時は俺がどうにかしますから」


 少し警戒する意思を見せるようにクロードは言う。


「う、うわ、こわ……」


「おいお前、コイツに何かしたらぶっ殺すぞ」


「しませんよ……そちらから何もしなければ」


「しねえよ……まあ警戒するのも分かるが。お前も子を危ない目に会わせる訳にはいかねえんだろ」


「ええ。理解が早くて助かります」


 そして少しだけ警戒を緩めるクロードに赤髪の少女が言う。


「じゃ、じゃあ無事争わず収まった所で……場所、移動しようか。互いの自己紹介もそこで……此処じゃ言えないような自己紹介だし」


「あの、さっきから半ば答え口にしてるのって気付いてます」


 思わず指摘してしまった。


「え、あーうん。気のせい気のせい。なんの事やら。と、とにかく場所変えよう場所を!」


 そう言ってユイは歩き出す。

 動揺の仕方も完全に答えだと思ったけど、少し可哀想だと思ったからそれは言わない事にして、私達はその後ろを追う事にした。

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