4 聖女と聖結界
「さあ、そろそろ行きましょうお嬢。忘れ物は無いですね」
「うん、大丈夫。クロードは?」
「俺も大丈夫です。ちゃんと念入りに準備しましたからね、万が一にも戻ってくる事が無いように」
「うん……私も」
まあそもそもあまり何も持ってきていないし、仮に私が何か忘れ物をしても取りに戻る事は出来ないんだけど。
国外追放された人間が許可なく戻ってくればそれは犯罪だし。
具体的な罪状は覚えていないけど……今度はこの国から出られなくなる。
檻の中だ。
それは絶対に嫌。
だから……大丈夫。ちゃんと戻ってこなくても大丈夫な準備はしてある。
「じゃあお互い準備完了という訳で。さ、お嬢。乗ってください」
「うん、分かった」
そして私達は馬車に乗り込み……動き出す。
この国の外へ向かって。
私がまだ現在進行形で張っている聖結界の外へ向かって。
「もうじき聖結界の範囲内を抜けますね……本当に今までお疲れ様でした」
「うん、ありがと。そう言って貰えるだけで嬉しい」
「いくらでも言いますよ」
と、そうこう話をしている内に、馬車が聖結界の外へと出た。
その瞬間、私が維持していた聖結界が掻き消える。
聖結界を維持するにはその範囲内に聖女が居る必要がある。
だから私が外に出れば何もしなくても勝手に消えるんだ。
そして結界と一緒に消えたのは……ずっと体に纏わりついていた倦怠感。
「……体が軽い」
「それだけ重たい物を背負っていたんですよ。ちゃんとお嬢は背負っていたんです」
「……うん」
と、その時だった。
馬車の背後に、新しい聖結界が張られた事が分かった。
私の聖結界が消えるのを待ちながら準備していたのだろう。
そうして張られた聖結界がとても強力な物だという事は、離れながらでも分かった。
……どうやら国王様の言った通り、新しい聖女は私よりも優秀らしい。
……いや、ちょっと待って。
「……ッ」
「どうしました?」
私が声にならないような声を上げた事に反応してクロードがそう聞いて来る。
どうしたのか。
それにうまく答えられる自信は無かったけど、とりあえず感じた事をそのまま口にした。
「あの聖結界……とても嫌な感じがする」
「嫌な感じ……ですか」
「うん……ごめん、本当にうまく言葉にできないんだけど。とにかく嫌な感じ」
これはあの新しい聖女を見た時にほど近い感覚。
否、それ以上に生々しく。
これだけは駄目だという酷く重い嫌悪感が、あの結界からは感じられる。
「……不快に感じるなら早く遠ざかりましょう」
「うん、お願い
それも馬車が進み遠ざかると少しずつ薄れていく。
だけど嫌悪感が薄れても、その疑問は強く残る。
一体あの聖女は何者なのか。
だけどその疑問を解決する方法はなくて。
その事を考えるのは後ろを向くことで。
今向くべきなのは前だ。
クロードと一緒に、前を向いて進んでいくんだ。
……だから、ひとまずは忘れる事にした。
例えその答えがなんであろうと、私にはもう関係の無い話なんだから。
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