規格外の先代聖女より少し弱いだけで無能認定され追放された聖女の私は、執事君に溺愛されながら幸せになります(旧版)

山外大河

一章 聖女追放の日

1 無能認定され聖女をクビになり国外追放される事になりました。

「クレア・リンクス。お前は今日を持って聖女の任を解き、国外追放とする!」


「……は?」


 17歳の誕生日のこの日、国王様から急な呼び出しが掛かったかと思えば、突然そんな無茶苦茶な事を告げられた。

 そして無茶苦茶なのは国王の言葉だけではない。

 国王様。その隣に立つ大臣。近衛兵。

 彼ら全ての視線が、まるで罪人を見るように重く鋭い。

 そこにあるのは純粋な敵意だ。


「あの……私、何かやっちゃいましたか?」


 向けられた敵意の意味を知りたくて、私は恐る恐る国王様にそう問い掛けた。


 本当に、何も身に覚えがない。

 私はこれまでやれるだけの事をやってきた筈だ。


 王都に魔物が入って来ないように聖結界を張り、同時にその効力により瘴気を除去。


 そんな結界を四六時中維持し続ける。


 そうやって慢性的な疲労を抱えながらもこの国を守ってきた筈だった。

 これまで頑張ってきた筈だった。

 だけど国王様は言い放つ。


「何もやっていないのが問題なんだ! お前が我がルドルク王国の聖女になってからというもの、王都内に魔物が侵入するわ瘴気も沸くわ、この百年長らく起きなかったそうした厄災が立て続けに起きる! それはお前が無能だからに他ならない!」


「……ッ!」


 王様の言葉に思わず声にならない声が溢れ出す。

 反論したくてしたくてたまらなかった。


 ……確かに私は無能だ。

 ……今まで立派に聖女としての使命を全うしてきた先代達と比べれば無能だ。


 だけど……果たして私はそんな風に非難される程、何もできていなかったのだろうか?。

 ……結果的に理想には届いていないという事実を棚に上げているのは分かっていても、強く言ってやりたい。


 ……それは先代達が異常な程に有能過ぎただけなのだと。

 ……皆が異常な程に完璧な事を、当たり前だと思っているのだと。


 たった一人で強固な聖結界を維持し、一匹の魔物の侵入も許さず、王都内の全ての土地からは僅かな瘴気も沸かなかった。

 私の前にこの国の聖女を務めた人達は皆、そんな人外染みた力を持っていた。


 だからそんな人達と比べたら月に一、二匹のペースで魔物の侵入を許し、微かに沸いた瘴気を浄化する為に走りまわっているような私は無能なのだろう。

 それでも……一人で被害をそれだけに収めているという事は、そんな風に罵られなければならない程に酷い成果だったのだろうか?


 こんな考えはただ自分に甘いだけなのかもしれない。

 ……それでも。

 少しぐらいは。ほんの少しくらいは感謝されたっていい筈だ。

 此処に居る誰か一人でもいい。

 ありがとうの言葉一つ位、掛けてくれたっていい筈だ。


 ……だけど頑張った結果がこれなら、もういい。


「……分かりました。荷物を纏めてこの国から出ていきます」


 反論してもどうせ何も変わらない。

 その程度で変わるのならば、今こんな事になっていない。

 だから大人しく、この国から出ていく事にした。


 ……だけど私が目の前の人達のように、どうしようもない人間でありたくないから。

 せめて自分が居なくなったらどうなるかだけは、伝えておくことにした。


「ですが私を追放すれば聖結界は消えてなくなります。そうすればより多くの魔物が侵入し、いたる所から瘴気が湧くでしょう。どうか早急に対策だけはお考え下さい」

 

「ふん! お前の様な無能に言われずとも手は打っておるわ。おい、入って良いぞ」


 王様がそう言うと、謁見の間に一人の女性が入ってきて、私の隣を横切っていく。

 とても綺麗で大人っぽくて。

 そしてどこか怪しい……そんな女性。


 彼女は王様に一礼した後、その隣に立つ。

 そんな彼女に王様は視線を向けた後、私に言った。


「彼女がこの国の新しい聖女だ。彼女は優秀だぞ。このままお前にこの国の聖女を任せていたらどうなるかを、懇切丁寧に教えてくれたし聖魔術の腕前もお前よりも遥かに上。お前のような無能に心配されずとも、これで我が国は安泰だ」


「……」


 そうだろうか。

 具体的にどうとは言えないけれど……国王様の隣で笑みを浮かべているその女性からは何だか嫌な気配を感じた。

 直感が、彼女だけは駄目だと必死に訴えていた。


 ……それでも。そんな事を私が言っても誰も聞く耳を持たないだろうから。


「分かったら早く我の前から消えろ無能! お前の顔などもう見たくはない!」


 その言葉通り、もう消えようと思う。


「……そうですか」


 そう言って私は踵を返す。


「今までお世話になりました」


 そうして私は謁見の間を後にした。


 謁見の間を出るまでに小声で話す近衛兵の声が聞こえてきたが、その声の主に至っては私がこの国に厄災を招き入れていると思っているらしい。

 ……いや、その近衛兵だけじゃない。

 きっとこの場に居る全員が、そんな事を考えているのだろう。


 国外追放処分で、命までは奪わない。

 そうして温情を掛けたつもりなのだろう。


 だからもう、知らない。

 恐らくこの国には厄災が招き入れられる。

 新しい聖女の顔と共にそんな予感が浮かび上がってくるけれど。


 ……もう、知らない。

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