廊下を走って怒られる

雨世界

1 私とあなたが出会ったのは高校生のときだった。

 廊下を走って怒られる


 プロローグ


 私たちは、ちゃんとした大人になれたかな? ねえ、あなたは、どう思う? 


 本編


 私とあなたが出会ったのは高校生のときだった。


 高校二年生。お互いに一六歳か一七歳だったとき。大人か子供かわからない、(たぶん、子供なんだろうけど)曖昧な年齢。時間。……甘酸っぱい思い出がいっぱいある、お互いに不完全な形をしていた時代。

 そんな未成熟な、(やっぱり子供だったのかな?)お互いになりたい理想の自分を探しているような、そんな曖昧な形をした時代に私たちは出会った。(それはきっと、運命だったと思うんだ)


 廊下を走って怒られる


 ある日、いつもの見慣れた廊下で、君と出会う。 


 あの、もしよかったら、私と恋をしてみませんか?


「あの、すみません。音楽室って、どっちの方向の建物の中にあるかわかりますか?」

 私がそう聞くと、あなたは不思議そうな顔をして私を見て、「……君、この学校の学生なんでしょ? なのに、なんで音楽室の場所がわからないの?」と私に言った。


「はい。実は私、今年、この高校に転入してきたんです」とにっこりと口元をあげて、満面の笑顔で私は言う。(笑顔は大切なのだ)


 そんなことを言う私の顔を見て、きょとんとした表情をして私のことを見つめていたあなたは、しばらくすると少し遠い場所にある建物を指差して、「あそこだよ。あの建物の三階に音楽室がある」と私に言った。


「ありがとうございます」深々と頭を下げてから私は言う。


「いや、別に大したことじゃないから、……あの、それよりも君」

「はい。なんですか?」


「日本語。すごくうまいね」とあなたは言う。

「本当ですか? 日本人の人にそう言ってもられると嬉しいです」とにっこりと笑って私は言った。


「じゃあ」とあなたは言って、二人がすれ違った廊下の上を歩き出した。

 私もあなたに教えてもらった音楽室のある建物に向かって、廊下の上を歩き出す。でも、すぐに立ち止まって私はあなたの去っていく背中を見つめた。


「あ、あの!」と私は言った。

「はい? なんですか?」あなたは私の声を聞いて私のほうを振り返った。それから私は立ち止まっているあなたの前まで早歩きで移動をした。


「私、ボアって言います。えっと、フランス人です。……それで、あなたの名前教えてもらえませんか?」

 顔を赤くしながら、私がそう言うとあなたは(なにがおかしかったのか、よくその理由はわからなかったけど)少しだけ銀色の眼鏡の奥で笑って「深見です。深見緑。よろしく。ボアさん」と私に言った。


 その深見さんの私を見ている端正な顔を見て、……私の名前を呼ぶ優しい声を聞いて、私は深見さんに(きっと一目惚れの)恋をした。


 それは私の(同年代の子と比べて)少し遅いのかもしれない、生まれて初めての本当の恋だった。(だって、私は音楽の勉強ばっかりしていたから)

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