【5月31日】如雨露
王生らてぃ
【5月31日】如雨露
雨が降っている。
わたしが降らせている。
大きな如雨露の中に、なみなみと注がれた水。
目の前でうなだれているあなた。
頭のてっぺんの、つむじのあたりに向かって、何本もの水の束が降り注ぐ。
ブレザーが濡れる。
シャツが透けて、桃色の肌にぴったり、貼り付いている。
わたしが水を浴びせかけている。
あなたが濡れている。
周りには誰もいない。
如雨露からごぼごぼと音がする。
なにも言わない。
わたしも言わない。
あなたは唇を噛み締めて、冷たさに震えている。
わたしは楽しいよ。
いい気味だとも思う。
いつもはしゃいでて、いい気になってるあなたが、びしょびしょになってるのを見るのは、正直胸がすっとする。
ざまあみろと思う。
無様だとも思う。
雨に濡れたあなたの髪の毛はとてもきれいだ。
濡れたまつ毛はきらきら光っている。
身体が呼吸するのがありありと見える。
水が無くなった。
よかったね、雨が止んだよ、わたしは如雨露を放り捨てて、じっとあなたのことを見下ろした。
あなたはまだ震えていた。
両腕をかき抱いて、肩を震わせていた。
ひーひーと笛のような呼吸が耳についた。それ以外はとても静かだった。
「気が済んだ?」
と、あなたは濡れたスカートで立ち上がった。
「ばかみたい。こんなことして、わたしがへこむと思ってるんだったら、ぜんぜんだよ」
「別にそんなこと、思ってない……」
ただ、水に濡れたあなたが見たかっただけ。
きれいなあなたが。
へこんでほしいわけじゃなかった。
あなたが笑う。
わたしのことを笑っている。
わたしだって笑いたかった。あなたの水に濡れた笑顔、あなたの声、ぜんぶ素敵だから。ちゃんと向き合えて嬉しい。
「なに、笑ってるの。気持ち悪い」
我慢できないというふうにあなたは笑った。
わたしも笑い出した。
そしてふたりでずっと笑った後に、突然、あなたはわたしの放り捨てた如雨露を拾い上げた。そして、水の入っていないそれの口の部分を握ると、ハンマーを振り下ろすようにわたしの頭を叩きつけた。
プラスチックの軽い音がした。
ちっとも痛くなかったけど、大きな音だった。
わたしはあなたが歩き去っていくのを見送った。
やっぱり、なんで素敵な人なんだろう。
雨は止んだ。
わたしをぶった如雨露が、足元に転がっていた。
【5月31日】如雨露 王生らてぃ @lathi_ikurumi
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