シャグナールの箱庭~俺たちは異世界で旅をする~

ヨシダコウ

イントロ



 気が付くと、不思議な世界にいた。


 見渡すばかりの純白の光景。ともすれば上下の感覚すらわからなくなりそうな、しかしその一方で、ゆりかごの中のようなぬくもりすら感じる優しい空間。


 正面には小さな光の玉が一つ、ぷかぷかと浮かんでいた。


 その光はふわっと一瞬だけ煌めいて、美しい女性の姿に変わった。




「初めまして、ゆきひろ。そしてごめんなさい」




 彼女は申し訳なさそうに目を伏せて、俺に謝罪した。


 それがなぜなのかわからず、問いかけようとして、そこで初めて声が出ないことに気づいた。いや、それどころか声を出すための喉も、手も、足も、体そのものが無くなっている。よくわからないが、意識だけがここに浮かんでいる状態らしい。そしてその状態をまるで夢の中のように自然に受け入れている自分がいた。


 夢、そうか、これはきっと夢なのだろう。




「本当はあなたにもっと生きていてほしかった。私たちを救ってくれたあなたに、あなたが望んでいた『何事もない世界』をもっと生きてほしかった」




 俺が望んだ? 何のことだかさっぱりわからない。




「でも、あなたの人生は終わってしまった。だから、この世界のすべてを代表して、私から一つだけ願い事をかなえられる祝福を授けます。それがせめてものあなたへの罪滅ぼしだから」




 目の前がどんどんまぶしくなって、彼女の姿がおぼろげになっていく。


 ああ、溶けていくようだ。毛布に包まれている時に似た、柔らかく、温かい感覚に身を委ねる。




「どうか、幸せに、ゆきひろ。優しい人——」




 そうして、俺の意識は真っ白に暗転した。


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