Episode09 明日から合宿
そのあと、違法な試合が強行されてしまったということで、教官達が無理やり特別授業を中止させた。
生徒たちに不要な感情を植え付け、F等級を貶めようとしたケルトは、
息子が起こした単独行動の結果、
あの闇営業で苦しんでいる人が少しでも救われるかと思うと、嬉しい気持ちになる。
あのあと、僕は少しだけヴェルディさんと話す機会があった。
「お疲れ様。アスベル君、君は大したもんだ」
「ありがとうございます」
「ところで、
剣皇か……。
今から皇族にはなれないけど、剣皇なら努力してなれるかもしれない。
権威者になれば、目的に一歩近づくだろう。
「考えてみますね」
「そうか。じゃあ、またどこかで会おう」
「はい、ありがとうございました!」
ヴェルディさんは笑顔で学園を去っていった。
その翌日──
「アスベルさん、ぜひオレに稽古を!!」
「その強さの秘訣はなんですか!?」
「どうやったらそんなに早く体を動かせるんですか!?」
「え、えぇと…………」
剣を教えてほしいB組生徒に囲まれて、僕はてんやわんやしていた。
もちろん、F等級自体への偏見が完全に無くなったわけではない。
相変わらずS組やA組、上位のB組には嫌われている。
でも、こうやって教えてほしいと言われるのは嬉しいことだった。
できる限り、僕は剣の型や稽古の仕方について指導した。
みんな喜んでくれた。
「お疲れ様、アスベル。大活躍だったわね」
ひととおり終えて休憩ってところで、フィオナがやってきた。
「すっごいスカッとした。かっこよかったわよ、未来の革命家さん」
「ありがとう」
「ところで聞きたいんだけど」
「うん?」
「アスベルって魔導士になりたいの?」
「ううん、なりたいのは魔導剣士だよ」
魔導士はその名の通り、魔法に特化した術者のこと。
魔導剣士は、魔法を使いながら剣で戦う者を指す。その特性ゆえに、中途半端な実力になりやすいと言われる。
例えば魔導士ならば、
反対に剣士ならば、
しかし、魔導剣士はどっちも気にしないといけない。
己の絶対量と相談しながら、どこでどうパロメーターに
デメリットばかり強調される魔導剣士だが、メリットは多い。
至近攻撃と遠距離攻撃を同時に扱えるからだ。
僕はより高みに立つため、あえて魔導剣士を選んだ。
まぁ、シェリーが「魔導剣士になれ」ってうるさかったっていうのもあるんだけど。
「明日からの合宿、どうしようかなぁ」
「あぁ、確か二級魔獣がわんさか出てくる……ヴィランの森だっけ? そこに行くんだよね」
参加者は確かF組とB組の第5Grだったはず。
そこで、実践的な魔法や剣の授業を行うという。模擬試合とは違い、成績をあげるために本気で臨んでくるだろう。
「どうするってどういうこと? 何か悩んでるのか?」
「担当のファニオロン教官いるでしょ?」
「あぁ、おのおじいちゃんか……」
のほほーんとした顔でハゲ、テッペンからちょろんと毛が一本生えてるのが特徴の先生だ。
ホームルームのときに顔を出し、あとは魔導学概論を教えてくれる。
あれでも魔導士としてはA級並みなのだそう。最高がS級といわれるが、それでも上から二番目。人は見かけによらないと驚いたものだ。
「ファニオロン教官がどうしたって?」
「合宿のときに二人一組のペアを組めって言うのよ」
「それがどうかしたの?」
フィオナはいつも、青髪青目のぱっつん女の子と金髪ロングの低身長な女の子と喋っている。
きっとそのどちらかと組むのだろう。
「ファニオロン教官が、F組に女子は三人しかいないから特別に三人一組パーティでいいよって言ってくれたんだけど……私、いまユリアと喧嘩中なのよね」
「ユリアって、あの身長の高い青髪の子だよね。すっごい大人っぽい顔してる」
ユリア・リリーゼ、C等級の子だ。
授業中に何度か話しただけだが、とても同じ16歳とは思えなかった。
魔導士志望の子だった気がする。
「ユリアは『メルと組む』って言ったの。相当怒ってるわ」
「メルさんって金髪の子だよね? 何があったの?」
「ちょっと複雑なのよ。簡単に言えば、ユリアが来年からA組になる可能性が出たの。私はもちろん賛成したんだけど、ユリアは断固拒否」
F組からA組に昇格するには、身分を上げるしかない。
A組になる可能性が出たってことは、本人か家族が功績をあげ、等級をあげたということなのだろう。
「拒否したの? どうして?」
「知らない、何にも喋ってくれないのよ。だからさ、アスベルお願い! 私とペアを組んでくれない?」
まあ、断る理由もない。
「いいよ」
「良かったわ。明日からよろしくね」
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