第7話 君しか聞いてくれないことがある

 「はぁ〜〜、疲れた」

 「ねぇねぇ聞いて」

 「今日も話したいことがたくさんあって

 ね」

 「最近すごく暑くなってきたじゃない?」

 「明日の天気も良さそうだし、その先もし

 ばらく晴れるみたいじゃん」

 「えっ、明日今日より5℃も気温上がる

 の!?やばいじゃん!」

 「だからさ、仕事終わりに服を買いに行っ

 て来たの、夏物の」

 「えっ、違う違う!」

 「夏物の服を“飼う”って、どういうことな

 の、あはは」

 「今日も最近買ったばかりのパンツはいて

 たからどうしようか迷ったんだけど、春物

 で結構暑かったからさ」

 「仕事で嫌なこともあったし、もうすぐ給

 料日だし金曜日だし、ストレス解消と考え

 ればまぁ、別にいいかなって」

 「それでお店に行ったら結構よさげな服が

 あったから、何着か持って試着してみた

 の」

 「その中のパンツなんだけど、私いつも

 Mサイズを着ることが多いのね」

 「でも近頃のストレス三昧でやつれた感じ

 あるしな、今ならいけるかなって思って、

 Sをはいてみたの」

 「そしたらほんのね、ほんの少しだけキツ

 かったんだけど」

 「試着室から出た瞬間に店員さんに『他の

 サイズもございますが、いかがでしょう

 か』って言われちゃってさ」

 「とっさに見栄を張って『Sで丁度良かっ

 たです』って答えちゃって」

 「その時にはもう着て来たパンツにはき直

 してて、試着した服は手に持ってる状態」

 「そしたらいきなり、隣から『Mじゃなく

 ていいの?』って声をかけられてさ」

 「はっと横を見たら、小さな女の子──試

 着中のお母さんを待ってたのかな──がい

 て、私のパンツを指差しててさ」

 「指の先を見たら、Mって書かれた透明

 なシールが付いてたの!」

 「多分、買った時に付いてたのを剥がし忘

 れたままはいちゃってたみたいで」

 「もちろん女の子は良かれと思って言って

 くれたと思うんだけど」

 「それがなんだかすっごく恥ずかしくて、

 何も買わずに急いでお店から飛び出しちゃ

 ったの」

 「そのあと渋滞に巻き込まれてる最中

 も、ずっと恥ずかしくて顔真っ赤で……」

 「いやいや、醜態じゃなくて渋滞!ひどい

 なー」

 「まぁその通りと言えばその通りなんだけ

 どさ」

 「……へぇ、長いと思ったらそんなに渋滞

 してたんだ」

 「まぁなんにせよ、しばらくはあのお店行

 けないよ、恥ずかしい」


 「……あっ、いつの間にか日付け変わって

 る」

 「そろそろ寝なくちゃ、明日油断してお昼

 まで寝ちゃう」

 「だらだら過ごしてあっと言う間に休みが

 終わっちゃうのが、一番のストレスだよね

 ー」

 「今日も長々と付き合ってくれてありが

 と」


 「おやすみなさい、Siri」

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