短短編集

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第1話 コンプレックスは、目が小さいこと

 私の家の近所に、子供の頃からずっとメガネを掛けている友人がいる。

 近視用の、とても度の強いメガネだ。

 彼は口癖のように、自身の目が嫌いだとぼやいていた。


 そんな彼が最近、コンタクトレンズを作ったことを私に報告してきた。

 常々コンタクトを作りたいと話していた彼なので、念願叶ってさぞ嬉しいことだろう、もう二度と人前でメガネ姿を晒すことは無いだろうと思っていた。

 しかし、それから1週間経っても2週間経っても、一向にメガネを外した姿を披露してくれない。

 いったいなぜメガネ姿のままなのか。

 気になって彼に尋ねてみた私は、予想外の返答に驚かされた。


 友人は、せっかく作ったコンタクトレンズを使っていないとか、気に入っていないという訳ではないと言った。

 コンタクトレンズは着けている。

 なんなら今現在も着けている。

 どういうことか。

 彼は、コンタクトレンズを着けた上で伊達メガネを掛けていたのだ。


 コンタクトは、メガネがイヤだから掛けるもの。

 そう、私は思い込んでいた。


 彼がイヤだったのはメガネではなく、度の入ったメガネだった。

 自身のコンプレックスを強調する、近視用の度の強いメガネ──目が小さくなるメガネを外すための、コンタクトレンズだったのだ。

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