二話 妊娠

 それから徐々に噂が広がり、驚異の晴れ人とモモを呼ぶようになっていった。これは、いつもモモの周りが晴れていたからという単純な理由だった。どんどん有名になっていくうちに、それが仕事につながるようになったりと生活はより充実していった。


 4月になり、お腹が大きくなっていることに気づいた。長年夢見ていたことがもしかしたら叶ったんじゃないかと思いながら、昼になる前にモモは医者に診てもらうため出かけた。行きに病院に行くことに気づいた人々は「大丈夫なのかしら驚異の晴れ人さん。どこか悪いのかしら。」と有名人である驚異の晴れ人に気づき心配する者もいた。


「すみません。もしかして驚異の晴れ人さんですか」

 と病院の待合室で見知らぬ少年がそわそわしながら話しかけてきた。

「はい。そうですがファンの方ですか」

「そうなんです。お会いできて本当に嬉しいです。よかったらサインもらえませんか」

 最近ファンが増えてきて、こういう事がが多くなっている。

 ーーまさか病院でも話しかけられるなんて。

 そう思ったが素直にサインをしてあげた。

「本当に。本当にありがとうございます。皆に自慢します」

 そういうと少年はお辞儀をして帰っていった。

 ーーいつもは嘘ぽいけどこの子は本当に私を好きみたい。

 自然と笑顔になっていた。


「モモさん。モモさんは、おられませんか」

 看護師が呼びに来た。

「はい。私です」

 そう言って、看護師に案内されて診察室に入っていた。

 --子供がいるといいんだけど。

 検査は脈を診るだけなのだが、キョウで一番と名高い医者であったためか簡単に終わった。

「心の準備はいいですか」

「はい。大丈夫です」

 と少し緊張しながらも言った。

「結果を言いますと、妊娠です」

「本当ですか!?」

ーーやった!本当に嬉しい!帰ったらトキに報告しなくちゃ。

 どちらも妊娠したことがなかったため、その喜びは一塩であった。その後、医者にさんざん勉強していた注意点を聞かされ、少しうっとうしく思ったがしっかりと聞いた。そして、モモはお腹を大事にしながら帰っていた。


 家についてから数時間後トキが帰ってきた。

 「トキ、おかえり!今日はいいことがあったの。なんだと思う?」

 とモモは勿体ぶりながら言った。

 「うーん。わかないから、多分で答えるね。多分、春の祭典に出れるとか?」

 「それは確かに嬉しいことだけどちーがーう。」

 いつもは当たっていないとすぐ機嫌が悪くなるが今日は違った。

 「じゃあ、なに?」

 「じゃあ、言うね。妊娠しました!!」

 少し言葉をためながら言った。また満面の笑みだった。

 「そうなの!?」

 驚きのあまり、トキは信じられなかった。

 「うん。本当よ。だって、ちゃんと病院で見て診てもらったから」

 「妊娠したのは本当に嬉しいんだけど、出来れば一緒に行きたかった」

 少し悲しそうに言った。それはトキがどこか置いてけぼりにされた気がしたからであった。

 「ごめんなさい。どうしても早く知りたかったの」

 「今度から一緒にいこう」

 モモが落ち込んでしまったことに気づき、トキは明るくいった。

 「わかったわ」

 目を見つめて、固く心に決めて言った。

 

 約束通りモモは、二人で病院に通い始め経過順調であった。モモの妊娠は有名人であったためか瞬く間に広まっていた。そのおかげかすぐに猫の好きのタケが妊娠おめでとうパーティーを開催した。また、猫好きのタケの友達の同じく妊娠したイチゴとその配偶者ワカと出会い友達になった。


 猫好きのタケはずっと不妊についての相談に乗ってくれた友人の1人でクロスターン出身の竜人である。身長は2メートル70センチくらいのオスで、黒い髪で髭を生やしている。また先先代が巨人である人間の家に婿養子として入っており、武器屋を夫婦で営んでいる。


 イチゴとタケは龍蛇人で黒い髪を持ち身長はそれぞれ240くらいである。2人とも平凡な顔立ちで、2人で野菜を売っている。また、この夫婦は後に生まれるクモの親である。 


 それから数か月後、まだ名前がない子はどんどんと大きくなっていった。お腹を蹴るようになり、時には痛いと感じるほどであった。これはトキが居ればの話だが、そういう時はトキ自慢の歌で赤ん坊を落ち着かせた。


 このころになるとモモは流石に仕事に出られなくなっていた。勿論、トキの収入はまぁまぁな額であるし、モモは人気になってからある程度稼いでいるので経済的には大丈夫である。だが、モモはどこか寂しさを感じていた。そういう時には決まって名前を考えていたものだ。だが、その子の名前は生まれるまで決まらなかった。

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