第2話

「みんなも薄々気がついているかもしれないが、高坂君は会社を退職することになった」


それだけだった。


辞める理由やその他の説明はなかった。


というよりも、上司自身がよくわかっていないような口ぶりだった。


となると、会社に来なくなった前日に「あのホテルには気をつけろ」と言われた私がその理由を一番知っているかもしれない。


やめた理由があのホテルにあったとしたらだが。


いや、たとえそうであっても、いったいホテルで何があったのか、何に気をつけなければならないのかは、まるでわからないのだが。



そして数日が過ぎた頃、私の出張が決まった。


宿泊先はもちろんあのホテルである。


気はのらないが、出張の際のホテルは会社が決めている。


それで長年やってきたのだ。


私一人で反対してもどうにもならない。


だいいち理由を聞かれたら大いに困ることになる。


辞めた先輩が「あのホテルに気をつけろ」言ったから、といった理由が間違っても通るわけもない。


私は仕方なくあのホテルに泊まった。


ニ泊したが、結果としては何もなかった。


安いホテルだけあって建物もかなり古く、部屋も狭くてサービスもお世辞にも良いとは言えなかったが、変わったこととか特別なことは何も起こらなかった。


正直不安でしかたがなかったが、とりあえずはほっとした。



しかし一週間過ぎたとき、急に同じ会社への出張が決まった。


どうやら納品した新製品に問題が生じたようだ。

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