ワームを撃破せよ(1)

「スモークが上がってますね…」

 車両の座席から身を乗り出して、高見が前方を伺った。それが上がってるということは違法オートマタが現れて、一度態勢を整えているということだ。笠原は二人の応答を待ちつつ、劇場からの振動を感知したアラートに反応して、モニタを開いた。すると、湊からの通信が入る。


「拓、違法オートマタが出た。でも予想外の機体だ。調べられるか」

「いま確認中だ。特徴は?」

「初めて見る。鯨かモグラか芋虫か…とにかく肉の塊みたいだ。映像を送る」

 湊が早口で特徴を並べると同時に画像が送信されて来た。笠原は、その蠢く物体を見て眉間に皺を寄せた。


「なるほどそいつは、ワーム型だ。違法オートマタの集合体。そいつは廃棄されたオートマタがなんらかの原因でバグを起こし、自己増殖しあった結果に結合した機体でめったにでない代物だ。人工皮膚が分厚く重なり合ってるから攻撃は貫通しないし、核が混ざって埋もれてるから狙う場所も通常の機体とは違う」

「集合体だと…?いま試したが電磁グレネードが効かない」

 黒澤が舞台の様子を覗き込みながら伝えた。


 笠原は、車内のフロント、サイドにエアモニタを展開させ自身ネットワークにアクセスし、情報を模索する。膨大な大規模構造の中を泳ぎ、先の一掃作戦のデータログのほかに、笠原工業の製造した新タイプの警備オートマタの履歴を見つけた。

 電気に強くて劣化しにくく、衝撃に強い。新機種の失敗作を破棄とある。隣国から入手した金属の加工に失敗したようだった。不思議に思った笠原は金属の特色を手持ちの情報と照らし合わせてみるが、何ともヒットしない。

「笠原工業が新たに開発した警備用オートマタの試作品がここの劇場の地下に廃棄されていたんだ。ウェティブがここに頻繁に来てたのも、新機種と自分が接続可能か試すためだろう。性能の特徴が一致した」

「なるほどね。劇場内で引きつけるから、ワームの装甲をぶち壊せる方法を考えろ」

「おいおい急かすな、考えてる。おまえのナイフが弾力があるものに効かないなら、硬質化すりゃいい。どうやってやる」

 湊は黒澤の方へ向き直りながら立ち上がり、ナイフを抜いた。劇場を覗き込む。どこまで有効か定かで無いが、時間を稼がねばならない。


「待って、車に積んだ試作品が使えるかもしれない」

 高見が閃いた途端に車から飛び降り、トランクを開いてすぐに作業を始めた。

「もう実用できそうか?」

 黒澤も調光室から顔を出しながら訊く。他に機体がいる気配はない。そのまま続けた。


「助かる。急いでくれ、あの芋虫みたいなやつの相手を、二人だけでこなすのは骨が折れる。いくら室内でもスモークの効果が弱ってきてる」

「すぐです。あと、今のうちに救難とばします」

「…、その飛ばした救難が、おれのとこに来るってことはないよな…」

 湊が不穏な面持ちでぼやいた。

「まだタグ取れてなかったのか」

 黒澤が呆れ顔で答える。

「取下げ訴訟中」


「それはない。いくらタグ付きでも、任務中の者にはアラートは来ない」

 笠原が補足する。

「そりゃよかった。自分で救難飛ばして自分で引き受けるなんて滑稽だからな」

「だけど…」

「なんだよ」あまりいい返答が想像できず、湊の返答に苛立ちが混ざる。

「この近くですぐ劇場へ向かえる業者がヒットしない。40分はかかる」

 笠原が低い声色で告げた。

「じゃ、おれたちでなんとかするしかないな」

「準備ができたら、おれが劇場内に向かうから、それまで持ちこたえろ」

 笠原が告げる。


「了解…」

 あきらめまじりに湊がそう告げたが、その瞬間を受ける驚きに目を見開いたと同時に、黒澤の声が響き調光室のガラスが割れた。突然の破裂に二人は驚きながら素早くそこから転がり出た。立て続けに、何かが劇場の壁を叩きるけるような鈍い音が響き遠のいて行く。建物が軋む音がミシリと聞こえた。

「どうした?」

 笠原だ。彼も車から降りて車のトランクへ向かった。高見のグレネード調整をフォローする。

「よく見えないが、ワームが廃材を吐き出したらしい。砲弾並みだ。もう帰っていいか?」

 湊が冗談交じりにそう言うと--さすがに顔は笑ってなかったが--黒澤が彼を睨みつけた。湊はわかっている、という顔で返事をして口元を釣り上げた。

「行くぞ」

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