短編集
@kurokurokurom
夕暮れ
実家に帰省して、僕は部屋の中で本を読んでいた。タイトルは「夏の川辺」。数年前に出版された本で僕は夏が来るたびにその本を読んでいた。窓の外は田んぼが広がっている。セミの鳴く声が部屋まで響いている。田んぼが山のふもとまで広がっていて、木造建築の家がぱらぱらと建っている。
僕の父親は市役所に勤めていた。僕が幼少期の頃から優しくて、ユーモアがあった。僕は父親に親近感を持っている。今日は仕事に行っていたので、家には母親しかいない。
「おーい。中村くーん」
窓の外から僕の名前を呼ぶ高い声がしている。僕は窓を開けて、玄関の前を見た。白いTシャツに短パンを履いた幼馴染の香織がいた。
「今行くよ」
僕は大きな声で返事をした。玄関まで階段を下りて、靴を履いた。玄関の扉を開けると夏の熱気と日差しを肌に感じた。
「ずいぶん久しぶりじゃない」
香織は背伸びをして、そう言った。
「いや、久しぶりだな。元気にしてた?」
「私は相変わらず順調よ。ちょっと河原まで散歩しましょうよ」
二十歳になった僕と香織はあぜ道を横に並びながら歩いた。香織の家は僕の家のすぐ近くにある。僕は東京の大学へ行って、香織は地元の国立大学に通っていた。夏休みになるとこうして二人で過ごすことが多かった。
「ちょっと痩せたんじゃない?」
香織は興味深そうに僕の体を見ている。
「痩せたかな?」
「前よりなんだか顔がしゅっとしてるわね」
香織は小石を軽く蹴飛ばした。
僕らは河原まで行って、土手に腰を下ろした。川のざぁざぁと流れる音がしている。僕は石を拾って川に投げた。石は川の中に沈んでいった。
僕は香織の隣で安心していた。僕は東京での生活に結構気を張っていたのだ。香織は僕の隣に座って、草をむしっている。僕はやっぱり地元が一番いいなと思う。
空には雲が広がっていた。青い空はどこまでも続いているようだ。小さい頃から見てきた景色だ。山々は木々に覆われていて、僕らの住む町を覆っている。
「香織はさ。卒業したらどうするの?」
「私は地元に残ろうと思って。今公務員試験の勉強をしてるのよ」
「ああ、僕のお父さんと同じだ」
「そうね」
僕らは川辺で話をしながら、ただ周りの景色を眺めていた。だんだんと空は赤みを増して、気づいたときには夕方になっていた。
「帰りましょうか?」
香織はそう言って立ち上がった。僕も立ち上がって、体を伸ばした。
家までの道で鳥の鳴き声が聞こえた。僕は香織の隣を歩いて、沈んでいく夕日を眺めた。やっぱりここはいいところだなと実感した。
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