第9話 音楽(2) 第一章 少女の狂気と世界の臨界点

 第一章を書いていた時はsora tob sakanaをずーっと聴いていた。

 今はもう解散してしまったアイドルグループだけど、私は彼女達が大好きだった。

 sora tob sakanaの四人時代、とりわけ初期を聴くと分かるのだけど、彼女達の歌声には性が感じられない。

 “夜空を全部”なんかを聞いてみてほしい。

 第二次性徴を迎える前の、少女とも少年ともつかない、危うく揺れる歌声がここにはある。

 里紗のキャラクターの第一の特徴として「潔癖」というのが頭にあったので、これがドンピシャだった。


 里紗と刀麻を宇宙へと導いてくれたのは、“Moon Swimming Weekender”という曲だ。

 この曲がなければ、私はあの場面を描くことはできなかった。

 ちなみにアルバムに収録されているものではなく、ギターとドラムの荒っぽい音が全面に響くシングル版(“夜空を全部”のカップリング)の方だ。

 無重力の海、時計の針を止める、など言葉から湧くイメージにも非常に影響を受けている。


 アルバムとしては「alight ep」をヘビロテしていた。

 特に“lightpool”は、インスピレーションを失って途方に暮れて夜の高崎の駅前を彷徨う里紗のイメージにバチリとハマった。

 

 sora tob sakanaの曲には、少女の想像力が世界の臨界点を超えて宇宙へと飛び出して行くパワーがある。跳躍ではなく浮遊のパワー。

 これが第一章の狂気を後押ししてくれた。


 他に聞いていたのは、SALUの「indigo」というアルバム。

 “space”は、あの宇宙の場面の刀麻サイドという感じの曲だ。

 let's escape to spaceというダイレクトなフレーズはサブタイトルの一部に引用させてもらっている。

 それから、“夜に失くす feat.ゆるふわギャング”は本家のMVよろしく刀麻と里紗と洵が歌いながら高崎の廃れたアーケード街を闊歩してたら楽しいだろうなというイメージでよく聞いていた。

 ゆるふわギャングといえば、「mars ice house Ⅱ」というアルバムをこの時期よく聞いていて、特に“palm tree”の蒸気で煙る雰囲気も、里紗と刀麻の二人きりの閉じた世界を演出するのに随分助けてもらった。

 

 それから、里紗が新しい音楽を赤子のように生み出す場面は、Tujiko Norikoの“Be Be”からインスピレーションをもらったかも。

 というか「少女都市+」はアルバム全体からすごく影響を受けている。“Anti Newton”とか。これも浮遊。


 …ということを、アーカイブの意味もこめて一年ほど前にツイッターで呟いていたんだよ。spotifyのリンクも貼って。

 それが凍結されて全部おじゃん。いまだにjailの中だからね、私の作家アカウント。

 ツイッター社は無実の天上杏先生を早く釈放しなさい。

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