わくらばときつね
「あ」
天高くを指す指先の、デコレヱトの、プラチツクの、それは大ぶりな花、して、くれなひ。背の翼の描き殴らるる絵は、所詮あーとといふ物か。感性のひんじやくなワタクシに、其れに添える賛辞在ら不。指先のにらむ天井、雲から落つるかの如き影は次第に大きくなり、つひにどちゃりとくずれてしまつた。
「きつとつかれてゐたのでせう。」
狐の手こんこん、くずれたものを踏み荒らし、掬い、べちゃり。顔ぬらすはらわたに臭いはなく、ああ、ワタクシがつかれてゐたのかとうなづきて、さあはじまりはじまり。
「くれないやお」
狐の女が名乗る。察するにそれはおもちゃのやうな、無意味なあいでいなのだらう。はちかい起きる字だといふ。はて、はちかいは魂ここのつの猫の、起き上がるべき数ではと呟く。たしかに、九尾に足らん、狐まがいだ、とこんこん笑うと、ワタクシの後につきトレインに乗る。
涼やかなる風が吹き下ろし、それに混ざる腋臭の酷いにおいに吐き気をもよおす。
「よいかね、あのをんなは、ふたっつ先で死ぬかも知らん」
外で立てたほうでない爪で寝ているをんなを指す。しんじゆのこぼれさうな、あをの爪。
「あれを、しなさずにおけたらば、あすはきつと良いことが有る」
狐がすたあとと囁いた。
其れ迄はきづかなかつたが、をんなのまわりにさんにん、柄は違うがそろいの缶バッヂを付けたをとこ。てづくりのやうだ。をんなをねめつけてゐる。あとふたっつゆけば終点。亥の刻、乗る人はおるまい。ヴィデオを付けるか付けざるかと話題になつていた電車だから、今はない。人の居ない間に殺すのか、ならばとワタクシは座り続けた。舌打ちが騒がしいが、人が増えるまでを見届け、そのうちにをんなは降りた。くれないがこんこんとわらう。
「殺気があんたにささつてゐるよ」
何事もなく電車を降りた。むつとした大気にためいき。くれないはどこかに消ゆた。木端舞いざわざわと蠢く大気。紛れ、こんこんと聞こえた。自動車が、けたたましく叫びて、ワタクシはゆつくりとしたわるつを踏む。はいじゃんぷで終。
ワタクシを指す指先の、デコレヱトの、プラチツクの、それは大ぶりな花、シテ、野郎死んでから。
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