第7話 アッシュの悩み
『
「おい……舐めた事をしてくれるじゃないか? だけどな……こんなもの、俺に効かないんだよ!」
純粋な魔力の結界――『
「アッシュ! 援護……なんて要らないか?」
背中から聞こえる女の声――だけど、いつでも援護できるように
炎の鞭を一瞬で再生させた
「……もう遅いんだよ!」
奴の懐に飛び込んで二本の剣を同時に振るうと、俺は巨大な腹を真っ二つに切り裂いた。
常人ならば狂い死にするレベルの断末魔の叫びを上げながら、凶悪な
二百レベル級の
何故ならば――
実技試験の二日後、俺は魔法学院を後にして仕事に向かった。
高速飛翔船で俺たちが向かった先は――大陸東部のイストリア王国に出現した新たな
そんな事よりも、今の俺を悩ませているのは――
「ねえ、アッシュ。なんか……いつもと雰囲気が違うね?」
亜麻色のポニーテルで、左右の瞳の色が違う如何にも仕事が出来そうな美女――キサラは俺の従姉で、四つ星『
「何を言ってんだよ、キサラ? 俺は何も変わらないから……」
そう言いながら、俺には自覚があった――
「アッシュがそう言うなら、良いんだけどね……ここからは私の独り言だよ?」
そう前置きしてから、キサラは優しい笑みを浮かべる。。
「アッシュは真面目過ぎるんだよ。まだ十七歳なんだから、『
俺の迷いを見透かした言葉――やっぱり、キサラには敵わない。
※ ※ ※ ※
出席日数をカウントしながら、俺はイストリア王国から帝立魔法学院へと最短ルートで戻った。
今回学院を休んだのは五日だが、進級できる出席日数を確保出来るか……そろそろ怪しくなってきたな。
だけど、仕事の方は待ってくれないから。もう進級を諦めてしまうか? それともソフィの『私の下僕になれば……それくらい大目に見てあげるわよ』なんて甘言に乗ってやるかと、考えながら学院の正門を潜ろうとすると――
「おはよう、アシュレイ君……五日ぶりだね!」
門の前に、ケイト=オードリーが立っていた――銀色サラサラの長い髪に、紫色の魅惑的な瞳。完璧美少女は、はにかむような笑みを浮かべる。
「おい、ケイト……
試験の翌朝、ケイトは今日と同じように俺が登校して来るのを待っていた。そんなことをする必要はないからなと言ったし、次の日から俺が仕事に行く事も伝えた筈だが……
「うん……だから、毎日待ってた。でも、アシュレイ君は気にしないで。私が勝手にやった事だから……」
恨みがましさなど微塵もなく、幸せそうに笑うケイトに――可愛いと思ってしまっても、仕方がないだろう?
「ケイト、おまえなあ……馬鹿なのか? 頭の中お花畑なのか? いつ来るかも解らない相手を毎日待っているとか……俺には全く理解できないね!」
照れ臭さを誤魔化すように、俺は強い口調で言うが。
「もう……アシュレイ君は、口が悪いんだから! でも、私は解ってから……アシュレイ君は本当は優しいって」
上目遣いに俺を見つめて、ケイトは頬を染める。
「勝手に言ってろよ……ほら、ぼやぼやしてたら遅刻するからな」
だけど、俺はケイトの横を素通りして校門を潜った。
「あ、酷いよ! アシュレイ君、待って……」
慌てて追い掛けて来たケイトと二人で歩きながら――こいつに
魔法学院を卒業しても、俺は公爵家を継ぐつもりはない。だから、これ以上ケイトとの仲を深める訳にはいかなかった。
『私と結婚を前提にお付き合いして貰えないかしら?』
幾ら何でも気が早過ぎるとは思うが、もし辺境伯令嬢であるケイトと
いや、別にケイトと付き合いたいとか思っている訳じゃないが……俺だって健全な十七歳の男子なんだ。こんな完璧美少女といつも一緒にいたら、誘惑に負けて一線を越えてしまうかも知れないだろ?
ケイトを守りたい――この気持ちを誤魔化すことは、もはや出来そうにない。だけど、俺は守るだけで、それ以上を望む訳にはいかないんだ。
だから、ケイトには悪いが距離を置こうと俺は思っていたのだが――
「アシュレイ君……お弁当を作ってきたら、良かったら一緒に食べない?」
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った直後、ケイト=オードリーは当然のように俺の教室にやって来た。
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