突然、公爵家を継ぐことになった俺は、魔法学院でモテまくるが――地位と財産が目的のビッチなんて、お断りだ!!!

岡村豊蔵『恋愛魔法学院』2巻10月30日

第1話 いきなり、告白されてもね?


「あの、アシュレイ君……率直に言うわ。私と結婚を前提にお付き合いして貰えないかしら?」


 帝立魔法学院の二年生である俺、アシュレイ=シュタインベルガー(仮)は、体育館の裏で美少女から告白されていた。


 相手は、同じ二年生のケイト=オードリ――オードリー辺境伯家の令嬢だ。


 スレンダーなのに出るところは出ているモデルみたいな身体。銀色サラサラの長い髪に、パッチリした目に煌めくのは、紫色の魅惑的な瞳。すっと通った形の良い鼻に、可愛らしいピンクの唇――まあ、何処からどう見ても完璧美少女だよな。


 だから、普通なら飛び上がって喜ぶシチュエーションなんだろうが――俺は全然、嬉しくなかった。


「……いや、おまえとは一度も話したこと無いし。俺に惚れる要素なんて皆無だろ?」


 正直に言おう……俺はこの手のシチュエーションに飽き飽きしていた。


 魔法学院に入学して以来、出席日数ギリギリの俺が登校する日には、必ずと言って良いほどど毎回、告白イベントが起きる。


 いや、別に自慢話じゃなくて……自虐ネタだから。


 だって、彼女たちの目的は俺自身じゃなくて――俺が継承することになった地位と財産なんだからさ。


『アッシュ……突然の話だが、おまえは母さんの実家であるシュタインベルガー公爵家を継ぐことになった』


 十五歳の俺に、親父は一度も会ったことのない祖父の地位を継げと言った。


『ただし、爵位を継承するには―つだけ条件がある……帝立魔法学院を卒業することだ』


 帝立魔法学院は帝国貴族のステータスシンボルで、伯爵以上の爵位を持つ者は必ず卒業している。だから爵位を継ぐために、学院卒業が絶対条件というのは理解できるが――


『嫌だね、親父……俺は貴族なんかに興味は無いし、今さら学校なんかに通えるか!』


 その時点で、俺はもう仕事に就いていたし。今の仕事が気に入っていたから、貴族になるために学校に通うなんて真っ平だった。


 だけど、仕事は続けても構わないという条件と、もう一つ。親父が提示した契約・・に惹かれて、俺は結局魔法学院を卒業することまで・・は承諾したのだ。


 それから一年半――俺は留年にならないギリギリの日数だけ学院に通って、公爵の地位と財産目当ての女子ビッチどもの相手をさせられているのだ。


「私があなたを好きになる理由が無いって、アシュレイ君は言いたいみたいだけど……でも、そんなことないわ。だって、私は……」


 銀色の髪をいじりながら、恥ずかしそうに頬を染めるケイトは、大抵の男子なら思わず惚れてしてしまうほど可愛いかったが――女子ビッチたちから、数々のハニートラップを仕掛けられた来た俺は騙されない。


「あのさあ……おまえ勘違いしてるみたいだけど。俺は学院を卒業しても、公爵になるつもりなんてない。シュタインベルガーの家名を名乗っているのも学院にいる間だけの話で、卒業したら元のアシュレイ=ウォルターに戻るからな」


 シュタインベルガー家の人間として学院を卒業しなければ、爵位を継ぐ条件が成立しない。だから、今俺は公爵家に籍を置いているが……卒業するまで・・が親父との契約だから、卒業したらすぐに公爵家と縁を切るつもりだ。


 爵位も継がず、公爵家の人間でもなくなった唯のアシュレイ=ウォルターに、地位と財産目当てのビッチたちが言い寄る理由など無い。


 この話をすると、女子ビッチの大半はてのひらを反して、俺に興味を失った。そうじゃない奴も『そんな事を言って……絶対公爵になるに決まってるわ、私は騙されないわよ』などと本音・・を露呈したので、早々にお引き取り願ったのだ。


 だけど――ケイト=オードリーは違った。


「公爵がどうだとか……もしかしてアシュレイ君は、そんな理由で私が告白したって思ってるの?」


 肩を震わせながら、ケイトは真っ直ぐに俺を睨んでいた。

 怒った顔も可愛いけど――図星なんだから、そんなに睨むなって。


「ああ、他に理由なんて無いだろ? おまえが考えていたような価値が俺には無いって教えてやったんだから、もう良いだろ? 俺も暇じゃないんだ……」


 俺は背を向けて立ち去ろうとするが、ケイトが袖を掴んで強引に引き留める。


「……馬鹿にしないでよ! 私は、そんなつもりで告白したんじゃないわ!」


「おい、放せって。信じないのはおまえの勝手だけど、他に優良物件があるから、そっちを当たってくれよ。例えば噂の腹黒皇子とか……何なら紹介するけど?」


 しつこくされても面倒だから、この手の相手には生贄いけにえを差し出す事にしている。まあ、あいつ・・・加害者・・・の一人だからな。文句なんて言わせない。


 ここまで言えば、これまでの女子ビッチは全員手を引いたのだが――


「アシュレイ君……本気で言ってるの? ……ふざけないでよ! どうして私の話を、きちんと聞いてくれないの!」


 思わぬ大声に振り向くと……ケイトは唇を噛みしめて、奇麗な紫色の目から涙をこぼしていた。

 何かを訴え掛けるような強い想いを込めた視線が――俺を射抜く。


「ねえ、アシュレイ君。お願いだから……私の話を、最後まで聞いてよ……」


 ケイトが他の女子ビッチと違うことは、さすがに解ったし。真っ直ぐな彼女に、俺が見惚れてしまったのも事実だけど――


「悪いな、おまえにも何か事情があることは解ったけど。初めて・・・会った奴の言葉を真に受けるほど、俺はお人好しじゃないんだ。だから、おまえがどんな理由を言ったって無駄だからさ」


 どうせ卒業したら、元のアシュレイ=ウォルターに戻るのだから。面倒臭い貴族の事情になんて関わりたく無いし、貴族である学院の生徒たちと関係を持ちたいとも思わない。


 俺の拒絶に気づいたのか――ケイトは何かにショックを受けたように呆然として、袖から手を放した。


 こいつにも事情があるみたいだから、申し訳ない気がする。それに他の女子ビッチはと違う彼女の事が、少しだけ気になるけど……貴族に関わると禄でも無い事になるって、散々経験したからな。


(ごめんな……)


 背を向けて、聞こえないように呟くと――俺はケイトを残して、その場から立ち去った。


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