入店
久しぶりに出た町。
そのはずだけど、全てが目新しい。自分がいた世界がどれだけ狭くて、どれだけ限定的だったかを改めて実感してしまう。
ただ、どうやらそれはボクだけではないらしい。
「すごいですわね。こんなに人で賑わっているなんて」
「そうだね」
アミリアさんもお嬢様故の限定的な世界を生きてきたのだろう。
全てをキラキラとした目で見ている。
そういう意味ではボクのほうが、まだ町には詳しいみたいだ。
少なくとも今のこの姿なら、トラブルにもならないと思うし。
男だからどうこうというよりは純粋な身なりとかの問題だったからね。
たまに、女性の立ち場が上の考えが極端によった人もいるけど、そっちの人のほうが珍しいはずだし。
「そういえば、今日は何処に行く予定なの?」
「町にある知り合いの店ですわ。わたくしが生まれた頃からお世話になっています」
「ということは貴族とかそういう関係の人?」
「いえ、普通の町の方ですわね。でも、お母様がその方のデザインを気に入って今は常連らしいですわ。わたくしは今までは家に来てもらっていたことしかないので、お店に実際に行くのは初めてですが」
町にでて、このキラキラした目をしているから店なんて知っているのか疑問に思ったけど、そういうことか。
まあたしかに服のデザインとかは、身分に関係なくセンスとそれを披露できる場所にさえ出会えれば立ち場関係なく評価されるものかもしれない。
弾んだ足取りのアミリアさんを、少しハラハラとしながら追いかけていくうちに賑わいから少し離れた場所に建てられた建物の前で足を止めた。
2階建てで、1階はお店になっているみたいだけど、何のお店かは外から見ただけだとわからない。
「ここと聞いているのですが……」
「あってる?」
「お店の名前などは……ただ……失礼ながらイメージと少し違いましたわね」
まあショーウィンドウとかでマネキンを飾っているとか、なにかそういうアピールがあるのをイメージするよね。
ボクもさすがにここまでなにもないと隠れた名店みたいな雰囲気はあるけど、入るのに躊躇する。
ただ『OPEN』の木札は入り口にかかっているから、何のお店かはともかく開いてはいるらしい。
意を決してボクが先に入る。
扉を開くと控えめなベルの音がなる。
中は何もなかった外と一変した世界が広がっていた。
右を見れば服。左を見ても服。奥を見るとアクセサリー。
それも別れてはいるものの男性向けのものも多数見える。
扉一枚で別世界に入った気分だ。
「あら、いらっしゃい……あれ? アミリアちゃん?」
そんな風に呆気にとられていると、服の棚に隠れて見えなかった場所から色気のある黒髪の女性がでてきた。そしてアミリアさんを見るとそう言ってグンッと近づいてきた。
アミリアさんのほうも彼女を見て安心したようだ。
「お世話になっております」
「あらあら、お店まで来てくれたの? 嬉しい~。外からだとわかりにくかったでしょ~」
「それは……正直不安でしかなかったですわ」
「ごめんね~。昔は色々飾ってたんだけど、最近はアミリアちゃんの家もそうだけど。直接依頼してくれる人とか、常連さんが多くてそれでどうにかなってるから。新しいものを作る期間ってことで外に飾るのはやめてるのよ」
「そうでしたか。でも、こうしてあえたから問題ありませんわ!」
「もー、アミリアちゃんのそういうところ大好きよ!」
本当に仲がいいみたいだ。まあ、アミリアさんからしたら物心付く前からの付き合いになるだろうしおかしいことではない……のかな?
人間付き合いについてだけは自信がない。
仲がいいのはさすがにわかるけど。
ただ、ぱっと見た感じだと結構若い気もするけど、お母さんと知り合いでアミリアさんが生まれた頃からってなると、少なく見積もっても――いや、これ以上考えるのはやめよう。
触れてはいけない世界に触れそうになっている気がしてきた。ボクの勘がそういっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます