訓練場

 さて、今日の授業は終わったけど、何をしようか。

 正直なところを言えば、寮に戻ってもやることがない。

 いや、そもそも寮に戻ってやることがある人がいるのか怪しい気がする。実際クラスが同じメンバーは未だ教室で交流を深めたり何処かにはいったけど、荷物が机に置かれていたりする。


「ノアさん。すこしよろしくって?」

「うん?」


 ボクがそんなふうにこれからどうするか悩んでいると、アミリアさんが話しかけてきた。一度教室を出ていったけど、用事でもあったのかな。


「どうしたの?」

「学園の中を見てまわりませんか? わたくしもまだ詳しくはないので」

「……いいねそれ」

「早いうちに覚えておいて損はありませんわ。それにこの学園はかなり広いみたいですから」

「本当にね」


 アミリアさんがこういうってことは貴族の価値観と比べてもやっぱり広いレベルの建物なんだな。まあ国も多分関わっていると思うからおかしくはないけど。


「それでは、まいりましょう!」

 アミリアさんはそう言うと、いつの間にか手に持っていた紙を眺めている。

「それは?」

「さきほど、カオラ先生に頂いてきた校舎内の地図ですわ」


 見せてもらうとたしかに地図だった。ただ、部屋の数が多くてかなり小さい。紙のほうを大きくすればいいと思ったけれど、そうすると持ちづらそうだ。

 利便性の方を重視して作られたんだな。


「今、わたくし達がいるのがここですわ」

「アミリアさんが気になったり、確認しておきたい所ってある?」

「入試会場となったコロシアムのような形で作られた訓練場はもう一度見ておきたいですわね。その他だと音楽室の位置は知っておきたいですわ」

「音楽室……何か楽器をやっているの?」

「お母様の方針で習わされた形ですが、少々ピアノの方を」

「その言い方だとそんなに好きではなさそうだけど」

「聞くのは好きですわ。ただ、自分で弾くのは得意とは……でも、自分でやってみた上で聞くことで、素晴らしさを知るということもできるので、続けようとは思っていますわ」

「へぇ~。まあそれなら今日はひとまずその2つの場所を確認してみて、その後はまたその時に決めよっか」

「そうですわね。でしたら、先に訓練場へいきましょう」


 アミリアさんはそう言ってから歩き始める。ボクもそれについていくようにするが、後ろから見ていてもやっぱりアミリアさんの歩き方は堂々としてるな。

 なんというか、美しいって歩き方だ。

 性格は結構天真爛漫だったり、かなり感情が出る人で女の子って感じなのに、立ち振舞は女性といいたくなるそれだ。

 ボクなんて歩き方はかなり矯正されて、やっと貴族の前でも普通に歩いていて恥ずかしくはないレベルになったのに。

 特に靴によって歩き方が変わるなんて想像もしていなかったから、何度怒られたことか。

 一度、学園のクラスのある建物から外に出る。そして少し歩いていると建物が見えてきた。

 おそらく上からみたら円形に作られてるであろう闘技場のような作りの訓練場。いや、学園での使用用途が訓練場というだけで、実際には闘技場とかコロシアムで合っているのかもしれない。


「ここですわね。覚えていますか。あの入学試験の日を!」

「あー……うん」


 女にされて数週間後にいきなりやらされたから鮮明に覚えている。

 結果的に模擬戦のお陰で自分の可能性が本当にあるかもしれないと思うことにもなったけど、実際にどうかはまだこれからだ。


「しかし、ノアさんはすごいなんというか……今、思い返せば歪でしたわね」

「へ? な、なんかおかしかったっけ?」


 あえて言うなら全部おかしくは合ったんだけど。全く自覚がないからわからない。


「いえ、魔法も使わなければ魔力も使用せずに、武器の扱いだけで戦っていた気がしますので」

「…………」


 たしかに、そこに関しては知識のほうを優先して身につけていた。体の使い方はスラム育ちの独学で見栄えを気にしなければ回避術とかには長けていた。

 どうにか戦えていたのはそれのおかげだけど、アミリアさんの指摘はごもっともといえる。

 魔法も学ぶこの学園に入るに当たって、戦闘に置いて魔法を使用するかはともかく魔力の活用をほぼしていなかったってすごいことだな。

 流石に、今は武器に魔力を込めて威力を上げるとかぐらいは、あの騎士に叩き込まれてできるようになったけど。


「ま、まあ、ちょっとね」

「でも、一番恐るべきは目ですわね」

「目? ボクの目になにかあるの?」

「回避や攻撃を受け流されてしまいましたが。一部攻撃を回避などならともかく、あなたは普通以上にそれができていた。つまり、わたくしの速度やテンポに関係なく、その目は剣や体の動きを捉えていたということになります」

「……まあ、それはたしかに見えてたけど。みんなできるものじゃないの?」

「苦手な方は苦手ですわよ。だからこそ、盾というものがありますし。仮に見えていても、どのタイミングで見極められるかという部分もあります。少なくとも、ノアさんの動き方はかなり見えている方のそれかと」

「そうなんだ……今まであんまり比較する相手がいなかったから自覚なかったや」

「長所はしっかりと理解しておくべきですわ!」


 天然の褒め上手なのかなこの子。でも、そうか。ボクの強みのひとつは目なのか。


「本当でしたら、一戦したいところですが、それは先生の指南が始まってからいくらでも機会はあると思いますのでその日にとっておきましょう。では、次は音楽室ですわ!」


 彼女はここは満足したのかそう言って闘技場を後にする。

 ボクも特にこれ以上見るものもないのであとを追いかけることにした。

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